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久しぶりに足を踏み入れたビニールハウスの店内は、相変わらず少し蒸しっとしていて、外よりはまだマシかなぁという程度だった。ソワソワしながら辺りをうかがう。そう、久しぶりなのは何も、シロやお店だけではないのだ。
「ねぇ、あの。て…ん…」
わぁぁぁ!
ドタドタとクロックスを踏み鳴らして奥の部屋から走り寄ってきたのは、大げさに眉をハの字にし、小さな目をユルユルに歪ませた店長さんだった。
「ごめんね、あの時はホントにごめん!」
勢いこんで、わたしの日焼けした腕をガバッと掴む。その圧とあまりの取り乱し様に黙りこんでしまったのが誤解を生んだのか、店長さんは焦った口調でまくし立てた。
「俺、あれから嫁さんに怒られたんだ。余計なこと言ったよね、シロとキミは友達なんだから、心配して当然なんだよね。謝らなきゃと思ってたんだけどさ」
良かった、来てくれて…。
項垂れて今にも泣き出しそうな後頭部は、湿気のせいだろうか、くるくるパーマがいつもより元気がない気がした。
「いえ、あの、わたしもお花もらっといて、お礼も言わずにスミマセン」
「それもごめんね、怖かったよね、こんなオジサンに物もらったりして」
「そんなことないです」
内心、ドキッとしたけど、そこはハッキリと嘘をついた。
「白いトレニア、今朝も咲いてました」
コンクリートの地面に落ちた薄い色の影が、あまりにも哀れで。顔を上げたその丸い鼻が、吉田先生に見えて。
「良かれと思ったことが、裏目に出ちゃうんだよなぁ」
「店長、セクハラですよ」
わたしの腕を掴んだままの手を指差して、シロがニヤリと笑う。店長さんは慌てて手を離した。
「ごめんね、ごめんね」
何度も拝むポーズをして見せて、女性も法律も難しい…と呟き、シュンとしているのを横目に、シロがわたしにそっと耳打ちした。
「息子さんたちにまで、相当怒られたらしい。何があったんだ?」
「内緒」
「うん?」
何だとぅ、という表情を見て、ちょっとフフンという気持ちになる。
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