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その人は、意外とあっさり見つかった。だって、雨上がりの今もやっぱり、ぴかぴか光って目立っていたから。改造されたビニールハウスのお花屋さん。緑の草木がもりもりと繁る、入口らしきスペースの前で立ち止まると、【FLOWERSHOP・RAINYGARDEN】という小さな看板の脇で花ガラ摘みをしていた彼は顔を上げ、雨音みたいな声で言った。
「こんにちは」
「…こんにちは」
蚊のなくような声で、わたしは返した。
「良かったらどうぞ」
入り口を避ける形でスッと立ち上がったその人は、青色の花たちに囲まれて一際輝く背丈の高い白花のようで、先月授業の一貫で連れていかれた、モネ展の一角に飾られていた絵画のように見えた。抜けるような白さって、こういうことを指すのかもしれない。
再び背を向けて花ガラ摘みを始めた彼をまじまじと見ていて、はたと気づいてしまった。
ピカピカ光って見えていたのは、髪の毛が独特な白銀色のせいで、何も全身が光っていた訳ではないのだ。
なぁんだ。
がっかりすると、現実が戻ってくる。
あぁ、どうしよう…。
勢いで学校終わりにここまで駆けてきてしまったけれど、見つけてそれからなんて全く考えてなかった。わたしはどうともできず、立ち尽くした。このまま後退りして逃げてしまおうか。それとも、何でもないふりして花でも買って帰ろうか。あぁ、そうか。うん、そうしよう。あの人の好みそうな花を飾っていたら、少しは仕事の疲れも取れるかもしれない。買ったことないから、持ち合わせで足りるか分からないけど。
けど。
日焼けした右手が、肩掛けしたスクールバッグの取手をぎゅっと掴む。
違う。今、欲しいのは花じゃない。ゲームで無敵になれる重要アイテムは、大抵、ちょっとした勇気の先にある。
「お兄さんは」
この、のたりのたりとした日常を、早回しするために。
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