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「白髪ですか?」
ブハッ
絵画に相応しくない、生身の人間が吹き出す音がした。彼は声をあげて笑った。笑い声がさらさらと、そこら中に降り注ぐ。
わたしの勇気の方向性、間違ってたかな…。
彼は一度息を吐き、摘んだ青い花ガラを、持っていた袋に入れると、緩んだ口元を楽しそうにキュッと上げた。
「直球だなぁ」
そこにあった笑顔にホッと胸を撫で下ろす。と同時に、心の奥がほんのり温かくなるのを感じた。彼は自身の髪の毛を一房指先で摘まみ、銀粉でも振り撒く素振りで振ってみせた。
「そう聞かれたら、そうなんだろう。幼い頃からこれだけどね」
「日本人じゃないんですか?」
「そう見える?」
「見える」
「残念、生粋の日本人だ」
その時。
「おーい、シロ」
ビニールハウスの中から声が聞こえた。
「はーい!」
彼が応えた。
シロ?
何て風貌に似合わない呼び名。そうは思ったけど、少し納得もした。だって、こんなにキレイな人なのに、笑うと少し可愛いかったから。きっと前世は犬だったんだ。血統書つきで、白銀色の、どっか外国の大金持ちに飼われていた、美しい犬。
入口から顔を出した黒髪の男の人がわたしの姿を見留めて、ニッコリと笑った。
「いらっしゃいませ」
そして、シロと呼んだ彼を見た。
「磁石男やってんじゃない。働け」
「店長、言いがかりです」
「中で、可愛いポーチュラカちゃんたちがお前を待っている」
「今、行きますよ」
シロは優雅な身のこなしで、わたしを振り返った。
「見ていかないか?」
ビニールハウスの中を親指で指す。
「時には、普段選ばない選択をするのも良いもんだ」
ドキッとする。何かを見透かされた気がした。チラリと顔を窺うと、彼は赤茶色の瞳をすぅと細めて穏やかに微笑んでいて、わたしの頬は急に熱を持った。
「中学生?」
くるくるパーマの店長さんが訊ねる。無言で頷くと、吉田先生に似た丸い鼻の頭をポリポリ掻きながら、店長さんは店長さんらしい愛想の良さで免罪符をくれた。
「何も買わなくて良いし、良かったらどうぞ。面白いかどうかは分かんないけどね」
そして、シロの絵画のような横顔を見上げ、呆れ顔で肩をすくめた。
「お前な。罪作りも大概にしろよ?」
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