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『わたしの『生きる』について。わたしは朝起きて、諸々準備して学校に行きます。そして先生の話を聞いて、何となく大人に気を遣って、時々寄り道をして帰って、ご飯を食べてお風呂に入って寝ます』
ひたむきに生きるって、どの辺をひたむきにすれば良いんだろう。シロの言うことは、全くもって抽象的過ぎる。中学生にもわかるよう、言葉を砕いて教えてほしい。
出ない答えに、シャープペンのお尻を机の上でカンカン弾ませていると、後ろの席から小さく折り畳まれたメモが回ってきた。この教室には、もう、わたしと佐々木しかいない。
『お好み焼き、食いにいこーぜ』
お腹の中では、さっき食べたばかりのお弁当の唐揚げがぐるぐる回りながら、今か今かと消化を待ちわびている。ヤツの食欲は底なしなのか?それに最近、頬のお肉のつき具合が気になっていて、ちょっとダイエットを始めようかな、なんて考えてた矢先だったのに。
せめてフレッシュスムージー飲みに行こうとか誘ってほしい。
まぁ、佐々木にはムリか。
それにしても面倒くさいなぁ。だって、今日もあの花屋に寄っていくつもりだったから。『いつでもおいで』と言ってくれた社交辞令を真に受けた体で。
メモに視線を落としながら色々思ったけど、最近何度も断ってたから、そろそろ付き合っとかないと、クラスメイトとしての関係に支障をきたしそうな気がする。
だけど、お好み焼きかぁ。今朝、あの人が、夕飯用にお好み焼きを作って冷蔵庫にしまっているのを見た。忙しい忙しいと言いながら。付き合いで買い食いをして、同じメニューを夕飯にまで食べなければならないことほど、げんなりすることはない。
『お好み焼き以外で』
そうメモの裏に書いて、後ろ手で佐々木に回した。その時、ぷん、とキツイ香水のような香りが鼻を掠めた。クンクンと鼻をならし、思い出す。鏡台の、林立した化粧品の中からこっそり拝借した、美白化粧水。試しに腕につけてみたんだった。だけど全然、白くなった気がしない。青い瓶の色は、とっても美しかったけれど。こんなに臭くて効果がなかったら、付け損だ。逆に、染み付いてとれないと思っていた花の香りは、一回の洗濯であっけなく無くなってしまったのに。人工的な香りを纏った小麦色の腕を、机にこすりつける。
臭いは取れない。
何か、テンション下がった。
色々と。
窓の外にはぎらつく太陽。そして、グラウンドの隅にひょろりと立った、紅い花の樹。羽根のような、フリルの、可憐なその花の名を、シロは大切そうに教えてくれた。
あれは、百日紅だよ、と。
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