視界に日傘の挿すころ

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視界に日傘の挿すころ

 最後に人と手を繋いだのはいつだっただろう。ふと、そんなことを考える。  現在の季節は夏。それも猛暑日が続く日々だ。人と手をつなぐなんて煩わしいにもほどがある季節である。それなのに、どうして「人と手をつなぐ」ことを想像してしまったのだろう。Tシャツの背中を流れる汗が増えたような感じがする。  周囲を見渡して、なんとなく連想の原因となったものがないか、探してみる。すると、どうにも意外なことに道路交通標識だった。「歩行者専用」を示す、おそらく父親とその娘が手をつないでいるものだ。  気づいてしまえばなんということはない。俺の意外な視野の広さというか、脳みその暇さ加減に少し呆れもする。  待ち合わせ場所に木陰を見つけ、そそくさと一人入り込む。日差しがないだけで、ずいぶんと体感温度が下がるものだ。だが、それでも汗が流れるのは止められない。ふと、高校時代の部室を思い出す。オブラートに包みに包んで言えば、青春の詰まった匂い。オブラートをびりっと破けば、男くさいあの部室。     
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