視界に日傘の挿すころ

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 待ち人に「臭い」と思われたくないなと思い、バッグから常に携帯しているデオドラントシートを取り出し、首や胸元、背中の届く範囲を拭き、そのあとは太い血管の通っている首の裏に冷たく湿ったシートを乗せる。  ぼんやりと、濃くも爽やかさを失わない、夏の空の青を見上げる。まだ午前中だというのに、アスファルトから熱気が立ち上ってくるのを、じりじりと感じる。  もう一度周囲を見渡して、待ち人の姿を探す。待ち合わせ場所は公園の南側入り口。場所は間違っていない。時刻を確認すると、待ち合わせの時間より少々早い時間のようだ。  まだ来ていないのも仕方ないかと、腕を組んで再度空を仰ぐ。去年までは、野球部に所属していた高校生だったこともあり、この日差しの中、校庭を走り回っていたことを思い出す。正直、もう二度とこんな猛暑の中で運動なんてしたくない。  不意に、見上げていた空を遮るものが視界に差し込まれる。白い傘だ。 「お待たせ。ごめんね、待った?」 「まあ、5分くらい。でも二人とも集合時間よりも早く着いてるし、謝んなくていいよ」 「でも、待たせちゃったし」 「いいから。早く行こう。今日は夏祭り用の浴衣を買いに行くんだろ?」  そう言って、やってきた恋人を急かす。一刻も早く涼みたい気分なのだ。たとえ、これから長時間浴衣選びに付き合わされるとしても。それに、恋人の浴衣選びに付き合えるのは特権だとも思うし、少し楽しみに思っている。     
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