6人が本棚に入れています
本棚に追加
災難のハジマリ
「あっ、ケータイ教室に忘れちゃった。ちょっと取ってくるから、ミナ、先に行ってて」
「うん、分かったぁ」
友人のミナを先に移動教室へ向かわせ、私、マカは教室へ早足で戻る。
昼休みが終わり、次は音楽室で音楽の勉強だ。
なのにケータイを机の中に入れっぱなしにしてしまった。
高校三年にもなって、ちょっと情けないかもしれない。
「早く行かないとな」
ぼそっと低く呟き、教室の引き戸を開けた。
「ひっ…!」
…ところが予想外の展開。
一年の時、同じクラスだった女の子が、私の机の中に手を突っ込んでいたのだ。
「…どうしたの?」
あえて明るく聞いてみた。
財布は持っている。貴重品と呼べるのはケータイぐらいだ。
しかし彼女の手には、私のシルバーのケータイが握られている。
「あっあのっ…あのっ!」
…だが、彼女はもう片方の手で、真っ赤なケータイを握り締めている。
「ごっごめんなさいっ!」
そう言って彼女は後ろの引き戸から教室を出て行った。
「…何なんだ? 一体」
私は不審に思いながら、駆け足で自分の机に向かう。
机に手を突っ込み、自分のケータイを取り出した。
そして開けて見る。
『あっ、はじめましてぇ』
バタンッ!
…閉じた。
何か今一瞬…ヘンなのが見えた。
恐る恐るケータイを開く。
『いっきなり閉じるなんてヒドイなぁ。ちゃんと挨拶したのに』
………。
「…何だ? お前は」
ケータイの待ち受け画面に、一人の青少年が写っていた。
確か私の待ち受け画面は、自分で撮った桜の写メだった。
なのにいつの間にか、変な男に代わっている。
『あっ、オレはハズミって言うんだ。よろしくね』
………。
………………。
………………………。
「幻覚か…」
『えっ、イヤっ、違うよ! オレはちゃんとキミのケータイの中にいるんだって!』
しかも会話まで出来る。
酷い幻覚だ。
疲れているんだな。
「さて、授業に遅れる」
私は再びケータイを閉じ、足早に音楽室に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!