番外編①お菓子は君がいい

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番外編①お菓子は君がいい

※J庭47無配(ハロウィン2019)  数年前から力を入れている地域イベント。  郵便ポストにチラシが入っているうちの一枚に、『ハロウィンフェスティバル』という文字が目に入った。  こういった行事イベントも地域イベントの一環だ。  ハロウィンである十月三十一日限定で、特に子供たち向けではあるが大人でも楽しめるようなイベントが開催される。 「昂、今年もやるみたい」 「あぁ、ハロウィンか」 「子供たちがお菓子をもらいに来るよ」  たくさん用意しておかなきゃだね、と言えば、昂はふっと目を細めて綾人の頭を撫でた。楽しみにしている綾人が可愛くて、昂はつい「俺も、お菓子という綾人をもらわないとな」と言えば、綾人に「親父くさい」と言われてしまった。  番に捨てられた綾人と、綾人に長い片想いをこじらせていた昂との間で色々あった末、二人は番になった。  しかも、元々ベータであった昂は後天性アルファへと変化してしまったから驚きだ。  色んなことはあったが、二人は今でも仲睦まじく幸せに暮らしている。 「今度、俺が仕事休みの日に買いに行くか」 「うん!」  デートだ、と喜ぶ綾人に愛しさが込みあがる。  小さなことで喧嘩をすることもあるが、日々幸せだ。  ハロウィンフェスティバルは、申し込みされた家以外は訪問しないようになっている。また、保護者も引率として見守っているので安全なイベントだ。 「おかし、もらいに来ました!」  元気な声が合わさって聞こえてくる。  綾人はお菓子の入ったカゴを持って玄関へと向かった。公平になるように、可愛らしいハロウィンデザインの袋に詰めてリボンで結んで準備をしている。  昂は後ろで綾人を見守っていた。  玄関を開けると、可愛らしく仮装をしている子供たちの姿。 「とりっくおあとりーと!」 「か、可愛いっ……!」  子供たちに興奮している綾人。そんな綾人に笑みを零したあと、子供たちの背後にいる保護者に昂は軽くお辞儀を交わした。  綾人との間に〝もしも〟子供ができたら、こうやってイベントを楽しむ日が来るのだろうなと、今目の前にある光景を見ながら想像した。  親ばかになる自信はあるなと考えながら、子供たちの目線にしゃがみ込んでお菓子を渡している綾人を見つめていた。 「ありがとうございました!」 「いいえ。またね」 「はーい!」  小さな手をひらひらさせて去っていく子供たちを見送り、ゆっくりと玄関が閉まった。振り返った綾人の表情は達成感で満ち溢れている。  子供たちと楽しそうにしていた綾人に「お疲れ」とひと言伝えると、もう今日で何度目になるかわからない「可愛い」を零していた。  リビングに戻り、肩を並べてソファへと座る。 「可愛かったなぁ……」 「その言葉、今日で何度目だ」 「ふふっ」 「ま、可愛いのは綾人もだけどな」 「えー、そうかな。そんなこと言うの、昂くらいだよ」  ふっ、と笑みを零す綾人。  そして、とん、と綾人の身体が寄りかかってきた。 「どうした?」 「んー、なんとなく」 「そうか……」  無言がお互いの間にできてしまったが、先ほどの出来事を思い出したのか、綾人がボソッと小さな声でもう一度「可愛かった」と呟く。  まだ二人の間に子供はいない。  だけど、二人はいつまでも待っている。  いつか、手元に来てくれるであろう、小さな命を――。 「……あ」 「昂?」 「俺にお菓子は?」 「え、本気だったの!?」  まるで冗談だったとでも言うような口ぶりに、昂は「本気だった」と言う。 「お菓子がないってことは、綾人は意地悪されてもいいってことだよな」 「こ、昂……いつからそんな意地悪するようになったの?」 「さぁ。綾人限定かもな」 「ひ、酷い! いつもはそうじゃないのに!」  頬を膨らませて抗議してくる綾人。  いつも、と言ってくるあたり、いかに自分が愛されているのかわかっているのだろう。  人をよく観察している。 「……ハロウィン限定だ」 「……そういうとこ、やっぱりずるい」  むすっとする綾人に、昂は窺うように顔を近づけ、掠めるように唇を奪った。 「ずるい」と再び不満を漏らす綾人だが、僅かに照れくさそうにしている。  今日来た子供たちも可愛いが、目の前にいる綾人が昂にとっては一番可愛い。 「意地悪されたい?」 「……される」  耳元で囁けば、綾人は頷きながら昂の服を引っ張ってきた。  瞬間、バニラの甘い匂いが強くなる。 「匂いで誘ってくる綾人のほうがずるいぞ」 「お菓子の代わりに、俺を食べて」 「お望み通り、食べてやる」 「ぅん、……っ……」  ソファに綾人を押し倒し、唇を奪う。  二人を包み込むバニラの匂いは更に濃くなり、昂も綾人も二人一緒に甘い快楽へと誘われた。  終わり
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