第1話

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第1話

 例え運命の番でなくとも、好きで番になれば、この人と一生を添い遂げることができるのだと、信じて疑わなかった。  お互いが好きで番になったのだ。  それなのに、彼は番を解消した。  それは、いとも簡単に。  もっと酷く言えば、オメガを「捨てた」のだ。  番を解消されたオメガは、これから地獄を見ることになる。  それが、オメガにとってどれだけ死を意味するのか、アルファにとっては到底理解できないだろう。 「っ、……は、ぁ……」  番に捨てられてしまったオメガの身体は、抑制剤も効かない。  抑制剤以外の薬なんてもっと太刀打ちできないこの身体は、今にも苦しくて悲鳴をあげている。  とどのつまり、三ヶ月に一度発症する発情期に、一生苦しまされることになる。  こんな気持ち、アルファには一生わからない。  熱に蝕まれ、たくさんの欲を吐き出しても、終わりの見えない時間を過ごす。  幸い、番を解消されたアルファとの間に子はいない。  そればかりは、今思うといなくてよかったと安堵した。 「ぁ、く……っ」  正直、この先ひとりで過ごしていくには限界がある。  今もこうして発情期に苦しまされている。発情期中は身動きも取れない上に、発情期が終わっても外に出ることも、生きていくために仕事をすることも、オメガにとってはどれもが苦痛でしかない。  しかし、これからの生活を考えれば、このまま死に至ってもおかしくない。  そんなことが頭を過る。 (……でも、誰ひとり迷惑をかける人なんていない)  ひとりで苦しみ、ひとりで死んでいく。 「……あ」  ――違う。ひとりだけいた性。  第二次性徴の検査時にオメガと判明しても、彼と番になるまで傍で見守ってくれた友達。  彼と番になってからは、連絡を取り合うことも少なくなった。  一縷の望みをかけて、ソファから辛い身体を動かし、テーブルに置いてある携帯を手にしながらも、そのままソファからずるりと滑り落ちた。発情期の熱で感覚が麻痺しているのか、痛いとは感じなかった。  震える指先で電源ボタンを押せば、画面が明るくなる。  たくさん並んでいるアイコンの中から電話のアイコンをタップして、よく通話するリストに登録してあった名前を押下した。  コール音になれば、スピーカーに切り替える。 『……綾人(あやと)? 久しぶりだな。どうしたんだ?』 「っ、こう……あ、あの……っ」 『は? なんだ?』  友達である(こう)には、彼と番を解消したことはまだ告げていない。 「ぁ、……こ、おっ……」 『綾人? さっきから……』  明らかに様子のおかしい綾人に、昂は気づかされた。 『もしかして、お前……!』 「こ、ぉ……ふ、ぁ……つ、らい……ぁ、つい、……よ……」  この熱から助けてほしい。  まだ喋れるうちに、理性が完全に飛ぶ前に、綾人は乞うた。 『今どこだ?』 「……い、え」 『住所、変わってないな?』 「んっ」  今すぐ行く、とだけ言った昂とは通話が終了し、ホーム画面に切り替わっていた。このあとすぐに飛んできてくれるのであろう昂に、綾人は欲に支配されないよう、ギリギリのところで理性をセーブしていた。  綾人が今いる場所は、元番の彼と一緒に暮らしていた自宅である。彼と番になったとき、昂に報告をするために自宅へ招待しているので住所を把握しているはずだ。  それに、万が一なにかあったとき用に、はじめから教えておくつもりだった。  元番である彼なりの優しさなのか、自宅は綾人名義に変更されていた。それは解消された一ヶ月後くらいに、書類が綾人の元へ届いたのをきっかけに知ったのだ。 (あ、つい……っ)  加速していく熱。  頭が焼き切れそうだ。  ふー、ふー、と息を乱しながら、昂が来るのを健気に待つ。 「ふぅ、っ」  熱が身体を徐々に支配していく。  ――トロリ。後孔が濡れていくのが、嫌でもわかってしまう。  この感覚が嫌だ。  自分が自分じゃないように思えてくる。  男なのに女とも捉えられる、この身体。  オメガ性に生まれてしまった自分が、とても嫌だ。 「こ、うっ……は、っ、……ぁ……」  耐えている理性が、このままだと負けてしまう。  欲に(まみ)れてしまう自分自身に、綾人は憐れだなと自嘲する。 「はあ、はー……っ」  すぐ来るとは言っても、魔法使いではない限り、すぐさま飛んでくることなんてない。まだか、まだかと熱に耐えていると、念願のチャイムが鳴った。  家の中でチャイムの音が響く。  昂が来てくれたと思っても、身体は動いてくれない。  それで問題はなかった。報告ついでに、元番であるアルファは常に忙しく、仕事人間だった。なにかあったときように、住所と合鍵も渡していたのだ。  昂が合鍵を使ってくれたことは、一度もなかったが。 「――……綾人!」  足音を立てて部屋に入ってきたのは、さっきまで電話口で話をしていた昂だ。綾人を見るなり近づいては、抱き起して顔を覗きこんできた。  ベータである昂は、オメガから放たれているフェロモンもお構いなしに綾人へと触れた。 「こ、う……っ」 「っ、大丈夫か? 辛いよな。……綾人がこんなになってんのに、あいつは……!」 「はぁ、っ、ぁ」 「……てか、なんでお前からフェロモンが……――」  そこまで言って昂はハッとした。 「まさか、お前……」  なにも言わない綾人に昂は悟った。  発情期になっているのに、どうして番であるアルファが近くにいないのか。番がいるはずなのに、どうしてフェロモンがベータの昂でも微かに感じ取れることができるのか。  それだけで、昂は綾人が番を解消された答えに辿りついた。 「こう、っ……は、ぁ……」 「たく、お前は……」 「……っ、あつ、い……あつい、よぉ……」 「……っ、俺がお前を助けてやるから」 「ん、ん……!」  発情期で敏感になっている綾人の身体を横抱きにして、昂は寝室のある部屋へと向かい、ベッドの上に優しく横たえた。  シーツのひんやりとした感触でさえも、身体が反応してしまう。 「ぁ、……こ、う」 「大丈夫だ。俺がいるから、心配すんな」  熱で潤んでいる瞳に、上気している顔。  これは発情期のせいであり、誘われているわけではない。  そんなことはわかっていても、目の前のご馳走に、昂はごくりと喉を鳴らしながら綾人へ覆い被さった。 「……キス、してもいいか?」 「ん、してっ……、ちゅー……して、っ、ぅん!」  理性と欲望と戦いながらも懇願してくる綾人に、昂は赤く濡れている唇に優しく食いついた。下唇、上唇と食み、はぁ、と熱い吐息を零せば、今度はやや乱暴に塞いだ。 「ん、んんっ……ぁ、っん」  隙間から舌を捻じ込み、口腔内を蹂躙する。歯列をなぞり、上顎を舌先で擽る。  途端、甘く、鼻にかかるような声が綾人から漏れた。  甘い声に昂の下半身はずくんと疼き、熱を持つのがわかる。  くちゅ、と唾液を交換するように舌を強く絡めて吸い取る。 「ん、ふっ……ん、んっ」  口腔内で、くちゅ、くちゅ、と淫猥な音が奏でられていく。耳殻や耳朶を擽りながらも、激しいくちづけは続く。  少しでも唇が離れようとすれば、もっと、と言葉にはしなくとも、行動で示してくる綾人。 (そんなにもキスが好きか)  知らなかった綾人の一面に、昂はお望み通りキスを与える。  それを甘受する綾人の姿。 「ぅちゅ……ん、んっ」  キスが好きなのはよくわかった。  わかったが、それだけではとてももどかしい。  キスをしたまま、片手で綾人が着ているパジャマに手をかけた。ボタンをひとつずつ器用に外していけば、露わになる肌。胸元に手を置けば伝わってくる鼓動。どく、どくと生きている証でもあるそれは、期待と興奮で高まっているように感じられる。  じんわりと汗ばんでいる肌は、発情期から来るものだろう。 「っ、はぁ……楽にしてやるからな」  パジャマを脱がすだけでも、肌に生地が擦れて感じてしまう。  ん、と小さく声を漏らし、昂の顔を、熱の孕んだ瞳で見つめてくる。  その表情は甘く、蕩けきっている。  恍惚としている綾人に、昂は首筋へと唇を寄せた。 「んっ!」 「……綾人、……あや……」  熱い舌でねっとり首筋を舐め上げる。  唾液で濡れた首筋を甘噛みすれば、綾人は甘い声をあげた。 「こ、う……もっ、……はや、くっ……」  急かす綾人に昂は苦笑する。 「……腰、少しでも浮かせられるか?」 「んっ」  はー、はー、と荒い息を吐き出す綾人に、昂はパジャマのズボンに手をかける。下着と一緒に脱がせば、一糸纏わぬ姿へとなった。  全裸の綾人を前にして、昂の欲がぐわっと湧き上がった。 (っ、これは……)  脱がしたことで匂いが余計に溢れ、頭がくらくらする。  ベータを魅了するほど、溢れるオメガのフェロモン。  ひとたまりもない匂いに理性をギリギリ限界まで耐えられているのは、昂が綾人を大事にしたいという強い思いがあるからだ。  触れるだけのキスを与え、昂の唇は首筋から鎖骨、心臓へと辿っていき、小さく主張している胸の頂きを舌先でベロリと舐め上げた。 「ん、あああっ……!」  たった、ひと舐めしただけでこの感度。  甘く啼く綾人に、昂は次々と刺激を与えていく。 「は、はぁー……っ、あ、あっ」  片方を舌で嬲り、残された片方の頂きは指で捏ねるように弄っていく。びくん、びくん、と陸にあげられた魚のように身体が反応を見せる。  赤ん坊のように、小さな粒ごと吸い上げれば、綾人はひときわ甘い声を高々とあげる。 「あ、あっ!」 「気持ちいいか?」 「ん、あっ、ああっ……!」  両粒とも一緒に刺激を与えれば、腰が思いきり浮き上がる。  ふるふると天を向いている綾人の性器は、ぴゅ、ぴゅく、と軽く白濁を零していた。軽く絶頂を迎えた綾人の痴態に興奮して、昂は指で摘まんでいたほうの粒を今度は下で可愛がった。 「あ、ああっん、……んっ!」 「っ、はぁ……赤くなってる……」  食べごろの果実になっている粒は、唾液でテラテラと濡れそぼっている。誘われるようにしゃぶりつけば、綾人は昂の頭を掻き抱いてきた。 「は、あっ、あっ、あっ」  母乳が出るわけでもないのに、赤ん坊のように何度も吸う。 「ああっ、ぁ、こ、う……んぁ!」 「……甘く感じるのは発情期だからか?」 「あ、あっ」  ぷっくりと腫れている胸の頂から、仄かに甘い匂いがする。  これも、オメガ特有のフェロモンなのだろう。 (……美味しそうだ)  昂は、これまでオメガを相手に一度も抱いたことがない。  恋人としてのつきあいがないといえば嘘になるが、オメガとの性行為は一切ない。性行為をする以前に、不思議なことにタイミングよく運命の番が相手に見つかってしまうのだ。  運命となると、抗うことはできない。  そうなれば、オメガとつきあっていても、その度に別れを繰り返すのであれば、同じベータ性を持っている人を恋人にしたほうが気楽なのではないだろうかと思ってしまい、昂はベータとつきあうことが殆どだ。  なのに、どうしても性行為に関しては、オメガだろうとベータだろうとあまり乗り気がしなかった。 「っ、こう……?」 「……あ、ああ、すまん」  綾人に名前を呼ばれ現実世界に引き戻される。熱で辛いだろうに、潤んだ瞳で見つめてくるそれは、とても欲情していた。  ごめん、と謝り、触れるだけのキスをする。すぐに唇が離れても、首に綾人の腕が周り、引き寄せられて思いきり唇を押しつけられた。 (本当にキスが好きなんだな)  可愛い。  そして、飢えた愛を埋めているようにも思える。  主導権を握られ、好きなようにキスを続ける綾人に、昂も負けじと唇ごと綾人を食べた。 「ん――……っ……!」  いくら、苦しそうにしていても逃がさない。  熱烈なキスを交わしながら、しっとりとしている胸の頂きを指で苛め抜く。親指の腹でぐりぐりと押し潰したり、摘まんだり、捏ねまわしたりして刺激を与えていった。 「ん、んあ、あっ!」  唇と胸を同時に責められ、快感に溺れていく綾人の痴態。  もぞもぞと膝を擦り合わせているところに気づけば、昂は片方の手を伸ばして綾人の濡れている性器へと触れた。 「ひ、いっ……あ、ああっ!」  ただ触れただけで甘美の声があがる。これだと、綾人の胎に怒張を挿れてしまえば、どれほど快楽に堕ちてしまうのか恐ろしいほど楽しみで興奮する。  くちゃ、くちゅ、と先走りを絡めさせながら、熱くて硬い性器を扱きあげていく。  粘着質な音が、耳を、脳を、刺激していく。 「ん、んっあ、ああっ!」 「すご……とろとろに溢れ出てくる」 「あ、あっ……!」  ひっきりなしに甘い嬌声をあげる綾人に、昂は更なる快感を引き出そうとする。片手で竿を扱きながら、もう片方の手――掌を使い亀頭全体をぐりぐりと捏ねまわす。 「ああっ! ひぅ、あああ――……あ、あっ……!」  嫌、とも言わずに、ただひたすら気持ちよく乱れてくれる。  もっと気持ちよくさせたい欲求が、心の奥からふつふつと湧き出てくる。ぐりぐりと弄り倒す性器は、びく、びく、と脈を打ち、こぷり、と昂の掌を濡らしていった。 「ンァ――……あ、あっ、っ」  ふる、と身を戦慄かせる綾人に、強く、甘く、刺激を与えた。 「ひ、んっあ、あ……! あ、――……っ!」  目を見開きながら腰をびくびくさせる。ぐちゅ、くちゅ、と卑猥な音が耳にこびりつき、喘ぎにならない切ない声があがるのを聞けば、綾人が絶頂を迎えた合図だと告げる。  ぷしゃ、と先走りとはまた違う「なにか」が、昂の掌を思い切り濡らし、受け止めきれなかった液体が隙間から溢れ出る。 「は、はぁ――……、っ、っ」  白濁とは違い、透明な液体。  潮を噴いたことに興奮し、絶頂して敏感になってしまっている綾人の性器へと再び触れた。 「んあ! っ、あっ」  絶頂を味わっている性器は、より敏感になっている。  まだ挿れてもいないのに、過ぎる快感に綾人は昂を求めた。 「……っ、ね、もっ、も、うしろ……ほし、い……あ、つい……」  苦しそうに懇願され、昂は両脚をグイッと胸につくほど持ち上げた。恥ずかしい格好をされているにも関わらず、綾人は恥ずかしがることもなく、自ら膝裏を持って昂を歓迎する。 「……っ」  昂を待ちわびたかのように、綾人の後孔はひくついている。  普段なら分泌されない蜜が、後孔からトロリと溢れてくる。  なんて卑しい(あな)なんだ――と思った。  自然にごくりと喉が鳴る。 「……美味しそうだ」 「ん、あっ……はや、く……」  強請ってくる綾人に、誘ってくる孔に顔を近づけた。  むわっと魅惑的な匂いが鼻孔を擽り、脳を刺激していく。匂いに誘われるように、昂は後孔を舌で舐めた。 「あ、ひっ……!」 「っ、はぁ、……あや」 「もっと、……こ、う……あ、んっ、んぅ」 「ああ、そうだな」  舌でひと舐めしたあと、にゅる、と侵入させた。 「ん、ああっ……!」 「じゅ、……ん、はぁ……」 「ひぅ、あ、あっ……ぐにゅ、あぅ……ぐにゅ、してう……っ」  オメガ特有の分泌されている蜜で、受け入れる準備はできているものの、それでも解してあげたいという欲が勝り、昂は蜜と自身の唾液を使って内壁を堪能するように解していく。  熱い内壁が舌を奥へ奥へと誘い込んでくる。  胎で舌が生き物のように動き回り、届かない部分は切なさで戦慄く。舌で届かない部分は指を侵入させることで刺激していった。 「んあっ……!」  舌を抜いたとき、物欲しそうにしている後孔は、指を挿れた瞬間、離さないとでもいうように締めつけてきた。 「こら、指を食いちぎる気か」 「はんっ、ん、あ、あっ……だ、って……っ……」 「はいはい」 「ん、んぁっ!」  挿れている指をゆっくりスライドさせていく。  ぬぷ、ぬぷ、と混ざり合っている音が孔から漏れてくる。 「ん、んっ」  指の動きに合わせて、綾人の声が躍る。徐々に速度をあげて気持ちよくなる場所を探していく。指を動かしていると、快感によって現れた一点のしこりが触れた。そのしこりに指先が当たれば、綾人は目を見開き、大きな喘ぎを見せた。 「――っ! あ、あっ!」 「……ここか?」  返事がなくとも、身体が一番よく知っている。  その証拠に、綾人の怒張はぐんと元気に、鈴口から先走りをたらたら零していた。天を仰ぎ、動きに合わせて震える綾人の怒張。 (……可愛いな)  ぷっくりと主張している気持ちいい場所である前立腺を、指二本で優しく擦る。びくん、びくん、と身悶える上半身に「もっと乱れた姿が見たい」という欲が出てきてしまい、強めにしこりを擦った。 「ひうっ! あ、あひ、あっ、あっ!」  気をよくした昂は、指の腹で擦ったり、二本の指で軽く挟んで揺すってみたりしながら、とろとろになる怒張へと触れた。 「い、あ、ああぁ、っ――……あ、ああぁ――……っ」 「イく? 綾人、イくか?」 「あ、あ、ああっ」  言葉にならない綾人の声は、甘い嬌声だけが発せられる。 「たくさん、気持ちよくいこうか」 「あっ、あんっ、ああ……!」 「怖くない、怖くないぞ」  優しい声色で誘導していく。  しつこいほどに前立腺を集中して擦れば、内壁がきゅう、きゅう、と締めつけてきた。ぐちゅ、と水音を立てながら、綾人を高みへと導いていく。 「ああぁ――……!」  ひく、ひく、と痙攣をはじめ、髪を振り乱しながら、綾人は昂の指だけでオーガズムを感じたのだ。 「――ッ……!」  声にもならず、身を硬くしてびゅく、びゅく、と熱を迸らせる。  絶頂を迎えているのにも関わらず、昂は挿れている指をゆるゆると軽く動かしていく。  すると、ひくん、と綾人の腰が小さく反応を見せた。 「……あ、あっ」  休む暇さえ与えない。  指を動かしただけで悦ぶ綾人の性器は、すぐに硬さを取り戻した。胎の中で優しく指を動かしながら、昂は綾人へ尋ねた。 「……綾人の中に、挿入ってもいいか?」 「あ、ああ、ぅ……こ、う……」 「俺じゃ、嫌か?」  涙と涎でぐちゃぐちゃになっている綾人の顔を見つめ、そして耳元で甘く囁く。  内壁を味わうように、指を増やして三本をバラバラに動かし、柔らかく広げていく。もっと気持ちよくなれる場所は奥にあり、指ではなかなか届かない。  ――もっと俺を求めて欲しい。  心のどこかでそう訴えかけてくる。  綾人のことを密かに想っていた昂は、滅多にないチャンスを全てにかけている。 「あやっ……!」 「こ、う……ほしいっ、……ほしい、よぉ……うしろ、きゅうってするっ」 「……そうだな」  切なくも、熱を孕んだ目で懇願されると、下半身が今にも爆発しそうになり、ギリギリのところで耐えた。  そんな爆発しそうな性器を、下着の中から取り出す。  この欲望の塊を綾人の中に挿入したら、胎はどれだけ気持ちいいのだろうか。  綾人を四つん這いにさせて、腰だけを高く持ち上げる。臀部を左右に広げて、熱い怒張を間に挟み込んだ。  挿入するわけではなく、パイズリみたく怒張をスライドさせれば、カリ首が孔を引っかける。 「んひぃ、っ……!」 「っ、はぁ、……綾人、これを、お前の中に挿れるぞ」  孔を滑っていく度に、ひくひくと収縮してくる。  今か、今かと待ち構えている。 「ほしっ……ほしい、ッ……!」  熱くて、硬い、その杭が胎に欲しくて、綾人は腰を誘うように軽く揺さぶり、強請りはじめた。 「……っ」  強請ってくる姿に、昂は怒張を胎へと躊躇いもなしに挿入した。ずぷり、と難なく呑み込む胎は、昂の怒張を歓迎するかのように内壁がきゅうきゅうと悦んでいる。 「綾人の中、あっつ……」 「あ、あああっ――……あ、あ!」  全身を戦慄かせ、綾人は歓喜の声をあげる。  馴染むまで動かないほうがいいだろうと良心的なことを考えていると、綾人のほうから動いてきた。 「やあぁ、うご、いてっ……あ、あんっ、あっ」 「っ、あや……」 「おくっ、おく、ほしい……、はぅ、ん、あっ」  腰を動かす綾人の動きに合わせて強く穿つ。腰を掴んで怒張を一気に最奥まで挿れれば、綾人はシーツを強く握りしめながら快感に酔いしれているように窺える。  交尾の格好で、獣じみた行為に酷く興奮する。  四つん這いになっているオメガを支配しているような感覚が、より一層気持ちを高まらせていく。  ぐちゅ、ぐぽ、と音を立てながら、奥を突きあげていく。 「っく、あやと……っ、あや……!」 「はぁああっ、あ、ああ、あんっ!」  もっと強く、と強請る綾人に、容赦なく怒張を奥まで突き入れて、ごつごつと壁を強く突いた。 「ああ! あ、ああっ、あ!」 「奥、痛くないか? 気持ちいいか?」 「ん、んあっ! ひぅ、あ、あっ」 「前立腺もいいけど、奥もいいだろ?」  抽挿を繰り返す度、ごりごりと前立腺に刺激を与えながらも、奥にあるポイントを責め立てる。  ごちゅん、とぶつかり合う音。  未開の地。  奥を突く度に内壁の収縮具合が違い、自然に奥へと誘われる。  拓けていないその場所に、亀頭をぐりぐりと抉じ開けるように小刻みに突いていけば、綾人は身を震わせた。 (逃がさねぇ)  ずるずると入り口付近まで引き抜き、一気に最奥まで貫く。  ――ぐちゅん。 「か、はっ……あ、ひっ、ぅ、あ、あっ」  がくがくと腰を震わせて、綾人の性器からはぴゅく、ぴゅく、と何度目になるかわからない、ほぼ透明に近い白濁を迸らせていた。  大量の染みになっているシーツは、もう吸い過ぎて役目すら果たさない。こつ、こつ、と最奥を突きながら、うなじから見える歯型を見つめた。 (綾人を縛るもの……)  ――俺、こいつと番になったんだ。  うなじを見せながら、嬉しそうに報告してくる綾人を思い出す。  なのに、今はあの歯型がとても憎い。  身を屈めて腕を伸ばし、そっとうなじへと触れる。 「っ……あ!」  びく、と肩を震わせる綾人。  オメガにとって首は弱点。その首に触れられ、綾人は小さく、不安気な声で昂の名前を呼んだ。 「噛まないから安心しろ。……噛んだとしても――」  噛んだとしても、それを上書きすることはできないし、ベータな昂と番になることは決してない。 (俺がアルファだったら、最初から番にしてたのにな)  叶うことのない、切ない恋心。  快楽を引き出しながら、昂は己の欲望を綾人にぶつけた。  中で痙攣を起こしている綾人の限界は近い。強い刺激を与えながら、昂は腰を打ちつけた。  発情期間中の受精率は高くとも、ベータと交わっても確実にそうなるとは限らない。ヒートになったアルファのみが、オメガを高確率で妊娠させることは可能だ。  それがまた悔しかった。  少しずつ拓けた部分に亀頭を捻じ込ませれば、綾人は「う――……うー……」と獣じみた声を出す。入ってはいけない領域に侵入して、強い刺激に身体が戦慄く。 「……綾人」 「ふぅー……、ぁ、っん」 「このまま、中に出すから……ごめんな」  胎に精液をかけないと、オメガの発情期は落ちついてくれない。  本来というべきか、基本的にはスキンを着用するが、このときばかりは暴走してしまうオメガを止めるため、直接中に精液を注ぎ込まないといけない。 「イくから……イくからな」 「ん、ん――――ッ、あ、ああっ……!」  激しく腰を穿ち、結腸にごちゅんとキスした状態で昂は熱を強く注いだ。 「ぅ、ッ――――!」  声にならないまま、昂の吐き出した熱で全身が歓喜する。  強い絶頂を味わっている綾人だが、それでも欲望の熱は消えないまま。 「……こう、……まだ、っ……まだ、も、っと……ちょー、だい……」 「……っ」  底なしの性欲。  昂は綾人に誘われるまま、何時間も綾人を抱き続け、綾人もまた昂から与えられる快楽に溺れていった。
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