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深草翔(ふかくさ あきら)は真新しい制服で窮屈そうにしながら電車に揺られていた。
朝の通勤ラッシュの時間ではあったが、運良くサラリーマンから座席を勝ち取ったのだ。
今日から高校生となり、新しい学生生活が始まろうとしていた。
車内は混んでいたが、人の間から見える窓の外は桜で薄桃色なのがわかる。
遠い外の流れていく桜を見つめながら、翔はこれから始まる高校生活に緊張と少しの期待を感じた。
電車を降りてからは、自分と同じ高校の制服を着た人しかいなかった。
ただ、皆友達と楽しそうに話しながら、スマートフォンで自撮りをしながら歩く人ばかりだ。
その光景に翔は何とも言えない不安なのか、それとも戸惑いなのか、いずれにせよ自信を欠いた。
それは教室に入ってからも同じだった。
これからクラスメートになるであろう先に来ていた人たちは、もう既に友達を作って連絡先を交換している。
先ほどまでの期待はどこへ行ったのか、誰かに喋りかける気力すら出てこない。
俯いて一人SNSを見ていると、隣の席に人が座った。
「ういー!俺ここの席だから前学期よろしく!!」
ニッコニコの笑顔で見ず知らずの人間に話しかけてきた彼に、翔は少したじろいだ。
翔「え、あ、うん。よろしく…」
翔も笑って返したかったが、ここで人見知りを遺憾なく発揮してしまい、思うような返事はできなかった。
しかし隣の彼は構わず続けた。
「深草…ショウ?カケル?っていうの?」
翔「...アキラだよ」
「わ…ごめん、これでアキラって読むのか...かっけえ!」
翔「いつも間違われるから大丈夫」
彼は屈託のない笑顔で話しかけてくる。そのお陰なのか、心なしかこっちまで話しやすい。
一葉「俺、山本一葉(かずは)!!」
翔「え…うん…?よろしく、山本…」
山本一葉。彼によく合った名前だと、理由はないが直感でそう思った。
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