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決して凍えないように
私の周りは、かつては暖かさに包まれていた。
夏盛りの暑い日も、冬の寒さが厳しい時も、風の強い日や雪の日だってそう。
いつでも心地良さを感じていた。
日差しが、声が、取り巻いている雰囲気が。
すべて暖かかったのだ。
私が笑うと、皆が喜ぶ。
私が泣くと、ひどく慌てる。
これが出来ると言えば『すごいねぇ』と褒められ、悔しいと言えば『辛いねぇ』と慰められた。
だけど、そんな日々はいつしか終わりを迎えた。
私が気づかないほど静かに、だけど着実に、それは奪い去られたのだ。
何かをやったと言えば『その程度の事しか出来ないのか』と怒鳴られる。
何かが出来ないと言えば『だったら辞めてしまえ』と、やはり怒鳴られた。
これには酷く凍えた。
体の奥底が、胸の奥深くから、凍てつくようだった。
心のどこかが、取り返しのつかない程、冷えきっていくのが分かる。
だけど、私には何も出来なかった。
ひたすら他人事のように眺め、自身の事だと知りつつも、地の底まで落ち行くその姿。
それを眺めていた。
全てを投げ出し、寒風に晒されて氷像となったその姿。
物ひとつ言わずに眺め続けた。
そんなある日。
私の頬を撫でる手があった。
懐かしさと、僅かな腹立たしさを連れたものが。
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