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僕は座席に足を組みながら座り、電車の車窓から外を眺めていた。
遠くにあるように見えた住宅地と畑の入り組んだ情景が目の前をあっという間に過ぎる。
窓が半開きになっていて、電車の走るスピードによって強められた心地よい風が顔を吹き付けてくる。
車窓から見える山々の木々達は緑から薄い黄色に変化を遂げ、いち早く秋の到来を告げているようだ。
電車に乗っているといっても旅行に行こうとしているわけではない。
今日、都内で転職エージェントと待ち合わせをしている。
待ち合わせ場所は新宿の小田急百貨店の目の前の喫煙所。
喫煙する場所が減って困っている者達の憩いの場所だ。
「あそこで待ち合わせすれば分かりやすいし、すぐに動けるからね」
転職エージェントは爽やかな笑顔で言っていた。
待ち合わせの時刻は昼12時30分になっている。
合流すると直ぐに紹介する企業を直行する予定だと言うことだ。
僕はこれまで新卒で入った地元の飲料水の営業職として5年余りが経過していた。
その間、満足な仕事が出来たとまではいえないが地べたを這いずり回るような地味な努力を積み上げてきた。周りからあいつはメンタルが弱そうだからすぐ辞めてしまうだろうと後ろ指さされていたので俄然おのれの意地をとことん見せつけやろうと躍起になって頑張っていた。その甲斐があって徐々に営業成績を伸ばし始め、目標としていた営業所長まで登りつめた。営業所長になってからも仕事に対するスタンスを変えず、大きなトラブルを抱えることなくやってきた。給与自体にも不満はなかった。しかし目標を達成した後ぐらいから、自分の中でもっと厳しい環境で目標を掲げて頑張りたいという思いが芽生え、新しいチャレンジ出来る場所を模索してはじめた。
丁度良いタイミングを見計らって20代ギリギリの今、転職を決断した。
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