出発

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電車の車内を見る。目の前のシートに買い物帰りの主婦、サラリーマンなどが少し間隔を開けて座っている。 平日の昼間の時間はいつもこんな感じで、別の路線に乗っても同じような光景が見られるのだろう 先程まで僕の周りの座席は隙間なく人が座っていたが、今は結構空いている。 腹に抱えていたビジネスバックを横に置いた。 これから面接だと思うと徐々に緊張をしてきた。 まだ到着まで時間があるので面接に向けてイメージトレーニングに励もうと思った。 面接をすること新卒以来のことなので志望動機や自己PRもしっかり練り込んで考えないといけない。 『この先カーブが続きますので車内が揺れる可能があります。ご注意下さい。あと車内で空いている窓がありましたら危険ですのですぐにお閉め下さい』 空いていた窓を車内の乗客が一斉に閉め始めた。 僕の背後の窓も開いていたが、気持ち良い風が入ってくるのでアナウンスを無視して開けたままにしておいた。 相変わらず清々しい風が入ってくる。オフィスの中にいる時は業務のことばかり考えていて風の心地良さなど考える余裕などなどなかった。 窓の外は陸橋があり大きな河川の上を通っているのが見える。ここから電車は都会の住宅密集地帯に入っていくのだろう。 「ちょっと済まないがぁ」 目の前に座っていた老夫婦の男性の方がゆっくり席を立ち、僕に話しかけてきた。 「この先は危険だからその窓を閉めてくれないかぁ」 「あ、すいません。風が心地良かったのでつい」 僕は危険の意味がよくわからなかったが、多分、寒いということ言いたかったかもしれない。すぐに窓を閉めた。 「窓を開けておくと危ないからねぇ」 おじさんはまた席に戻って座った。 僕は引き続き目を瞑って面接のイメージトレーニングの続きを始めた。
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