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僕の住んでいる街は、必ず十五夜には餅を搗くかしな風習がある。月見団子と呼ばれる餅を量産するのだ。子供だからどうしてなのか知らないが、どうにも街全体がそんな空気になるのだ。だから、僕の家も例外なく、今日、昨日買っておいた糯米を使って餅を搗く準備を進めている。母は、餅を搗く準備を朝から着々と進めている。妹は楽し気に母の周りを跳ねていた。僕はこの日が嫌いだ。人は月には餅をついているウサギが見える。というが、僕には、そのウサギが一度たりとも見えたことはない。月の凸凹がウサギに見えるなんておかしいと思うのだ。家は餅つきのせいで大忙しだし、僕も手伝いに駆り出される。遊びたいのに、遊べない。この日が嫌いだ。今も準備を進めている母を見て、このままでは今回も手伝わされてしまう、と思った僕は家を飛び出してみることにした。
僕は、僕一人で外に出たことがない。小さいからダメらしい。だけど、今日の僕は一味違う。僕は子供なのだから、もっと気ままに遊んでもいいはずだ。僕はそう思って1人で家を出たのだ。街に行くためには歩いて向かわなければならない。友人たちとほんとうは遊びたかったが、友人達も家で餅をついているから遊ぶこ とができないだろう。僕は大人だから不良のかっこいいいお兄ちゃんたちみたいに家の手伝いはしないのだ。気分を上げつつ、跳ねながら歩き出す。通ってきた道は暗く、1人で歩くには、少し怖かったが、親や、友人たちと一度来ていたため気持ちが落ち込む前に来れた。視界がだんだんと明るくなってきたら、そこは、店が多く並んだ商店街だった。しかし、いつものにぎやかな雰囲気がない。商店街は静まり返っていた。
1人でお使いに行く時はどうにも、心細くなる。誰しもが、1人ということに恐怖を感じ、未知のものに恐怖を感じるのだ。
僕はほんとうに何故か、怖くなって、いつもの明るい商店街からかけ離れたその場所にも不安になった。
商店街は、いつも賑わっていた。お店は全て開かれ、買い物客や、カッコイイ不良のお兄ちゃん達、色々な人で賑わっていた。はずだ。今日の雰囲気は怖かった。
商店街を恐る恐ると、歩く。1歩、1歩進んでいく。商店街の店は全てシャッターが閉ざされていた。
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