さらさらと

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 中学時代、部活が始まる前に、体育倉庫をかきわけかきわけ自分たちの必要な道具を探し出した。たいていの運動部では1年の仕事だったけど、わたしの所属していた陸上部はアットホーム(弱小)で、学年関係なく早く来た人が準備することになっていた。  彼はサッカー部の1年生で、よく2人組で準備に来ていた。彼の相棒のこともよく覚えている。1年生にしては背が高く整った顔立ちをしていた。同じ部活だった後輩の女の子たちはその相棒が来る時間に合わせ、隠れているふりをしながら丸見えの状態できゃー、きゃーとはしゃぐ。あからさまなその子たちの前を、彼の相棒は何も気づいていないような顔をしてスタスタと通り過ぎて行ったけれど、彼は数ミリ頭を下げてはにかむような会釈をした。 「いやじゃないの?」  ある日、彼がひとりで片付けに来た時にそう訊ねたのがはじめての会話だったと思う。いやじゃないの、モテる友達といつもいて。なぜだか意地悪くわたしは聞いた。床に落ちていたバスケットボールをポン、と床に弾ませながら。彼はキョトンとわたしを見た。学年も違う女生徒なんて道を歩いている他人と変わりない。きっと後で「変な女いた」とか笑うんだろうなと思った。でも、彼はにっこりと笑って、 「貸してください」  と、わたしが手慰みに弾ませていたバスケットボールを受けとると、すっと流れるようにボールを宙にはなった。体育倉庫の反対側に立てかけてあったゴールポートにするりと吸い込まれる。ものすごく綺麗だった。  それから、彼はわたしに話しかけてくれるようになった。放課後の賑わいが始まる前の体育倉庫でわたしたちは別にどうってことのないおしゃべりを繰り返した。今では一体何をしゃべっていたのかよく思い出せない。
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