さらさらと

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 夏の終わり。今日と同じようにとろりとした風の吹く日だった。200メートルを走ろうとしていたわたしは、スタートの瞬間にふと秋の気配を感じた。その秋の気配がいったい何だったのかはよくわからない。空の色か、雲の動きか、風の冷たさか。もっと単純に、誰かがうしろで「もう秋だね」みたいなことを話したのかもしれない。走り出した瞬間に、「秋か」と思った。秋になったら部活も引退だなと思った。大きな部活は最後に引退式みたいなものがある。でも、陸上部は違う。9月の文化祭が終わった頃にみんなでご飯を食べに行く。それで引退。だから、人によって、最後に部活にくる日はばらばらだ。  短くて長い200メートルの間にわたしは思った。もしかしたらこういう何でもないダッシュが最後の走りになったりするのかもしれないなぁ、と。  眉を下げて心配そうな顔をする後輩たちにヘラヘラと笑い返し、校庭の隅で傷の手当てをした。そこからは校庭がよく見渡せた。たくさんの生徒がいて、それぞれの部活に取り組んでいるのに妙に静かに感じた。テレビの中の世界を眺めているように妙に現実感がなかった。うっすらとした膜が張られていそうだった。手を伸ばしても、ぶよんぶよんと弾き返されるだけでどれだけ粘っても破れなそうなやつ。  ただ、校庭の隅にこうして座っていることは妙に現実感があった。お尻はひんやりと冷たくて、膝はじんじんと痛み出し、お風呂滲みるなと思いつつも、こうやって思い切り膝を擦りむくのももう終わりかもしれないなと少し感傷にもひたっていた。  思いもかけなかった声が上から降ってきたのはそんな時だった。
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