アクアリウムの中の揺らぐ水・第６話

第11章 桃の初めての恋人

「別に悪口じゃないよ。ただ、前向きに頑張ってるあまり、無理ですとかできませんとか言い出せないって自分で思い込んでるんじゃないかとかさ。いよいよ無理って限界まで頑張っちゃうんじゃないかなって思うと…。大変な時は愚痴言ったり文句言っても大丈夫だよ。お得意様の前ではともかく、俺とか他の先輩の前でまでいつでも元気なにこにこ笑顔じゃなくても平気だから。多少凹んでたり弱音吐かれても評価は変わらない。少なくとも俺は」
わたしは考え込みかけ、慌てて止まりそうだった手を動かした。器用じゃないので脳がフル回転しだすと今度は作業に身が入らなくなる。ミスしないよう気をつけなきゃ、単純作業の時こそ。
「わたしって、作ってるように見えますかね。性格とかキャラとか」
彼は手許に目線を落として淡々と言った。
「意識して作ってるとは思わないけど。前向きな姿勢でいようとかなるべく笑顔でとかはそう努力して保ってるもんだろ。それで上手くいってる時はいいけど、本人も気づかないで無理がかかってるといけないから。ところどころで息を抜く癖をつけないとな。オンオフのめりはりをちゃんと考えて」
「はぁ…、勉強になります」
わたしはしみじみ頷いた。
どうしてかわからないけど、佐内さんにはこういう今のわたしの性格が天然の生まれつきじゃないってわかるらしい。他の先輩や同期たちにはお前はいつも楽しそうでいいなとか、悩みなんかなさそうで羨ましいよとか言われることも多いので。無理してるつもりもそんなにないから、そう言われるのも仕方ないなって普通に受け入れてた。だけど、そうか。