第11章 桃の初めての恋人

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「自分ではほんとに楽しいから笑ってたってとこもあるから。だけどやっぱり周りから見たら不自然に見えたりとかもあるのかな。ちょっと気をつけた方がいいのかも」 少し真剣にそう自戒すると、佐内さんは苦笑して首を横に振った。 「無理してるんじゃなきゃそれはいいんだ。ほんとに楽しいって思ってるんなら、俺だって柚野が笑顔でいてくれた方が…。ただ、俺たちみんなを元気にするために裏を見せないよう頑張りすぎてるんじゃなきゃ。このままじゃ柚野が弱ってる時にこっちもうっかり気づかなかったらと思うと。それだけ少し心配でさ」 この人、ちゃんと後輩一人ひとりのことも気配りしてくれているんだな。わたしはちょっと感動して顔を上げて隣の彼の顔をちらと見やった。 真面目な勉強のできる学生さんみたいな少しお堅い顔立ち。だけど口を開いて笑顔で話し始めるとそんなイメージはあっという間に吹っ飛んでしまう。わたしにとって佐内さんは佐内さん、他の誰にも似ていない。初めて好きになったあの人とも全然違う。 彼のことを考えるだけで胸の内が沸き立つように心がふわっとなる、ってとこだけは変わらないけど。この人に認められたい、その視界に入りたい。気を配らなきゃならないちょっと不安な新入社員ってだけの存在としてじゃなくて。     
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