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「わたし、佐内さんに追いつきたいんです。追い越せるとは元より思ってないけど…。頼ってばっかりじゃなくていつかは肩を並べて同じように仕事ができるようになりたい。まあ…、何年、何十年かかるか。わからないんですけど、そりゃ」
大見得切っといて台詞の途中から半端なく自信がなくなり、しまいにはぼそぼそと尻切れとんぼに終わる。そちらに目を向けなくても隣で佐内さんが柔らかく笑ったのがわかった。
「何十年もかかるわけないよ。ほんの四歳くらいしか違わないんだから…。それに、柚野は今ひとつわかってないみたいだけど。今でも俺はだいぶ助けられてるよ、既に。だからそんなに焦って急ぎすぎることない。柚野自身のペースでゆっくり成長していけば充分だと思う」
「…はい」
わたしは俯いて短く頷き、手許の作業に集中するふりをした。胸と喉の中間あたりがじん、と熱くなる。
わたしがぱつんぱつんに張り切り過ぎで危なっかしいから気持ちを楽に持たせようとしてくれてるんだ。優しい人だな。
このままどんどん好きになっちゃったらそれも困るな。職場で邪な気持ちになって、それを原動力にして頑張ってるって誰かに見破られたくない。
この思いは大事に胸の奥にしまっておかなきゃ。
わたしは小さくため息をついて、手慣れた佐内さんの手先のスピードに少しでも追いつくべく、でも間違いのないよう意識を集中して作業の続きに本腰を入れた。
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