第11章 桃の初めての恋人

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そんな風にしてわたしの名前が変わった話も自然と出てきた。そのお返しなのかどうかわからないが、佐内さんも自分の家の話など折に触れて教えてくれるようになった。 それによると彼は東京の下町の生まれ育ち。実は今でも実家住まいで、会社には主にバイクで通っているとの話。わたしは意外さにサンドイッチを取り落としそうになった。お堅い優等生だった融通の利かない家庭教師みたいな見た目なのに(あくまで外見)! 「…都内なら地下鉄とかの方が便利じゃないんですか?」 「いやそれがさ。都内ったってだいぶ外れのエリアだから。あんまりうちの路線使い勝手がよくないんだよ。それくらいならバイクが一番早い、渋滞もすり抜けていけるしね。それに終電とかも気にしなくて済むだろ」 それでわたしや霜山さんを返した後も少し残ったりすることが多かったのか。わたしは頭を振って真剣に訴えた。 「終電がなくなるくらいの時間まで働きづめの後にバイク乗るのやめてくださいよ。疲れがたまって集中力が落ちてたら危ないじゃないですか。タクシー使ってください、ちゃんと交通費支給されるでしょ」 彼は大したことだと思ってない風でのんびりと話を受け流した。     
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