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「タクシーだとうちの辺り、道が狭くて複雑だからさ。一通も多くて説明がいつも面倒だし。…わかった、これから気をつけるよ。電車で行ける場所はなるべくそっちで行くことにする。まあ、ほとんどスピード出さないからさ。そんな危ない思いしたことなんかないんだけど」
わたしがよほど情けない表情だったのか、苦笑いで約束してくれた。
聞けば下町の商店街の乾物屋の息子さんだという。下に妹さんが二人。わたしは思ってもみない話に目をぱちくりさせた。…乾物屋さん?
「乾物屋って何売ってるか知ってるか、柚野」
「知ってます!一般常識ですよ。ええと、確か。…干し椎茸とか。干瓢?」
彼はカフェオレのカップを片手にあはは、と楽しそうに笑った。
「まあ大体そんなもんかな。その分だとその手の店で買い物したことなんかないだろ?」
わたしは小さく肩をすぼめた。
「だって。…うち、中途半端な地方都市の新興住宅地ですもん。商店街なんかろくになくて、みんな買い物は週末に車でモールでまとめ買いするような土地柄なんですよ…」
これは本当。地方ならそういうのいっぱいあるだろと思われてるかもしれないが案外そうでもない。歴史と伝統のある街なんかはもちろん県内にあって、そういうところは昔のものがきちんと残ってるけど。
意識して街並みを残そうって場所じゃないところは結構淘汰が進んでしまってる。逆に東京に出てきて、こっちは古いものや歴史を感じさせるものがいっぱいまだあるんだなあと感心したもん。
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