第11章 桃の初めての恋人

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パイプ椅子をがたがたと隣に広げてくれる。わたしは頭を振って答えた。 「わたしなんか…。佐内さんに較べたら、何にもしてないも同然だから。ただのお手伝いですよ。責任のある立場とは全然、疲労の度合いが違います」 そう言いつつもありがたく彼の隣にすとんと座り込む。イベント終了時間まであと少し。そしたら人海戦術でわっと一斉に片付けが始まる。その前に少しでも休んでおかなきゃ。 思わずぽろっと本音が口からこぼれる。 「…ああ、明日からまた自分の部署に戻らないと。もう年内も数日だから。それくらいはこのままこっちのグループにいたかったなぁ…」 彼がくったりした姿勢のまま目だけをわたしの方へく、と鋭く向けてきた。 「柚野。…自分のグループ、何か戻りたくない理由とかある?仕事やりにくいとか、難しい得意先があるとか」 「そういうの全然ないです、すみません」 わたしは速攻素直に謝った。そうだよね、変な言い方すると要らない心配をかけてしまう。 この人はいつでもわたしが悩みを抱えてないか、何かを押し込めて我慢してないか気を配ってくれてる。そのことを忘れちゃ駄目。 誤解がないよう正直に白状する。     
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