第11章 桃の初めての恋人

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わたしは両頬を抑え、ぱっぱっと軽く払った。いい歳してみっともない。さっき軽くお腹に入れたからその時のおにぎりのご飯粒かな。それとも一袋自腹で買ってみてみんなで分けて食べたクッキーの屑? 彼が見定めるようにすっ、と顔を近づけてきて眼鏡越しに目を細めた。なんか、どぎまぎするほど距離が近い。…かも。 「なんだろ、キラキラしてる。…ツリーに飾るモールから取れた繊維かな?静電気でくっついてるのか払っても上手く取れないみたいだな。…ちょっと、待って」 そのまま彼の手がふっと伸びてきた。冷たい指が頬に触れ、思わずぎゅっと目をつむる。わたしの反応に彼は少し焦ったように手を引っ込めた。 「あ。…ごめん」 「ううん」 なんか、どきどきしてきた。だけどもう少しこの雰囲気を味わっていたい。わたしは思いきって彼にお願いする。 「平気。…取って、それ」 「うん」 彼の指先が丁寧に頬を軽くこする。ほんとに静電気でぴったり張り付いてるみたいで結構苦戦してる。ちょっと焦り出したのか指の動きが覚束ない。…自分の心臓の音だけが、耳の両側で熱くばくばくと響いてる…。 「柚野」 目を閉じてじっとしていると、再び佐内さんの声がわたしを呼んだ。心なしかさっきより、距離が近い。ような。 彼は囁くような声でわたしに呼びかけた。その背後で心を浮き立たせるクリスマスミュージックが遠く響き続けてる…。 「柚野、目ぇ開けて」     
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