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わたしは素直に目を開けて彼を見返した。
やっぱりすごく顔が近い。この二年近くの付き合いの中で今まで見たこともない表情。こんなに真剣な顔つきだとやっぱりすごく真面目に見える。いや普段も不真面目な人ってわけじゃないけど。
彼が思い詰めたように口を開いた。その声が僅かに掠れてる。
「あの、ずっと。…言えないでいたんだけど。柚野は…、俺のこと。ただ親切な先輩だと思ってこうしてるんだろうし。これまで一緒に仕事してきて、ずっとこうしてられたらいい、これで充分楽しいんだから余計なこと切り出すのは。…と思ってて。柚野はそんなこと考えたこともないんだろうから、変なこと言うとかえって引いちゃうだろうなと。そしたら今まで通りには戻れないかもしれないし」
「…うん」
不意に、自分の座ってる椅子がぐらんと傾いだ気がした。地震か?と思って慌てて室内を見回すけどどこも揺れてる様子はない。
何か信じがたいことがわたしの人生に起こってる、今まさに。心臓がはちゃめちゃに肋骨の内側で暴れ回り始めた。…でも。
ほんとに現実?これって、ものすごくリアルなわたしの願望充足的な夢の中なんじゃない?
彼の指がまだわたしの頬に触れたままだ。その先がやたらと氷のように冷たい。
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