第11章 桃の初めての恋人

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がし、と両肩に彼の手がかかった。思ってたより大きくてごつい。肩先がすっぽり手のひらに包まれてしまう。指先は氷みたいに冷たいのに、手のひら全体はむしろ火照ったように熱かった。 「お前がほんとに誠心誠意頑張ってるのは誰よりも知ってるし。誰かのためだけにやってることだなんてみんなも絶対思わないよ。そんな器用な奴じゃない。裏も表もなくて。…いつも、見ててはらはらするくらい頑張り過ぎで」 彼の両手がふっと肩から離れた。そのままためらったように宙を泳いでる。実に言いにくそうに、でも思いきったように切り出した。 「柚野。…少し、あの。…触ってもいい?」 「触る?」 意味がちょっとよくわからない。わたしは首を傾げた。彼は慌てて早口に弁解する。 「変な意味でじゃないよ。だけど、あの。そっとでいいから。嫌なら」 「嫌じゃないよ」 わたしは真剣な声でそれを遮った。 「佐内さんに触られたくないとこなんてどこにもない。全然何されても平気。ほかの誰でもなくて。…佐内さんだったら」 「そんな言い方。…もう」 ふわ、と温かな体温がいっぱいにわたしを包んだ。がたんと大きく椅子が鳴った。今わたしたちどんな体勢なんだろう。とちょっと混乱する。 「何されても知らないぞ。…危なっかしいな、ほんとに」 「だって。本当のことだもん…」     
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