第11章 桃の初めての恋人

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「あの、柚野桃です。その節は…、入社式の際には大変お世話になりました。おかげさまで無事入社できました」 上背のある彼は首を曲げてわたしを見下ろして顔いっぱいに微笑みを浮かべた。素直な髪型に飾り気のない眼鏡で生真面目そうに見える外見だけど、口を開くとざっくばらんで気さくな親しみやすい感じを受ける。その印象は初めて顔を合わせた時と変わらない。 見かけと違って四角四面なところが全然ない。相手の肩の力を抜いてリラックスさせてくれるのが上手だ。講義でもあっという間にその場の緊張をほぐして、質問や意見が活発に交わされる楽しい雰囲気になった。 新人相手にこういう研修を任されるのも頷ける。人前に立つのも慣れているのかとにかく自然体で柔軟、堅いところのない人だった。 こういう人、きっと集団の中にいてもいつも何となく周りに人が集まってくるどこか明るい存在なんだろうな。わたしなんかが近くに寄ってもただのその他大勢にしかなれないのかも。これは前途多難だなと漠然と感じていたのだが。 それってどういう前途を期待しての話なんだってとこまではまだ思いも及ばない。どうにも鈍いわたしの本能なのだった。 「勿論覚えてるよ。柚野さん、その後研修は問題なく受けられてる?疑問に思うことやわからないことがあったら遠慮なく言ってよ」     
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