第11章 桃の初めての恋人

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多分、わたしのかけている椅子に無理やり半分座り込んできたんだ。彼の身体の半分がぴったりとわたしの片側にくっついてる。不意にわたしを抱きしめている両腕がぎりり、ときつく締めつけてきた。 「…佐内さん。苦しいよ、ちょっと」 「あ。…ごめん」 彼は両腕を緩め、少し空間を置いてわたしの顔を覗き込んだ。その両目に何かの感情が抑えようもなく溢れてる。 多分、わたしの方も。 熱に浮かされたような顔つきで佐内さんがそっと自分の眼鏡を外した。そうか、こういう時ってやっぱり眼鏡って取るんだな。とぼんやり変なところに感心する。 この人の眼鏡とった顔、何度か見たことあるけど。やっぱりすごく大好き。眼鏡かけててももちろん素敵だけど、何となく素の表情が見てとれる気がして。ほんの少し彼の内面に近づけた気がする。ずっと見ていたい、っていつも思ってて…。 「…柚野。目ぇ閉じろ」 「あ。そうか」 弱ったように注意されて慌てて従う。そうだ、こういう時って目は閉じるもんなんだっけ。ぼうっと彼の顔に見惚れてる場合じゃない。 途端に温かな、柔らかい感触が唇を覆う。触れた部分がじんじんと痺れるよう。うっとりと考える。 これが。…好きなひととの、初めてのキス。 男の人の唇って。思ってたよりずっと、柔らかい…。 「…桃」 そっと唇を離して低い声で短くわたしを呼ぶ。ずきん、と胸が甘い痛みを感じた。初めて、下の名前でこの人から呼ばれた。     
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