第11章 桃の初めての恋人

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そうか、仕事はまだ始まってないからそれで困る事態にはなってないけど。研修で不明な点があればってのは連絡する口実にはなるなとその台詞にひらめいたけどそれでも何も浮かばない。実に残念なわたしの頭脳だが、まあお忙しい先輩に何かと口実見つけてストーカーみたいに他愛ない連絡ばかりするのもどうかと思うし。わたしは神妙に頭を下げた。 「ありがとうございます。一日も早くちゃんと戦力になれるよう頑張ります。…ミスは最小限に」 彼は爽やかに笑って明るい声で励ましてくれた。 「大丈夫、結果あれで二度と同じミスしないよう気をつけようって心構えできたでしょ。入社式はインパクトあるけど実害ないから絶対身になるいい経験になったと思うよ。ある意味ラッキーだったと考えればいいんじゃないかな。俺たちにも君の印象強く残ったし」 あたたかいお言葉だが、最後のは喜んでいいのか情けなく思うべきなのか。わたしはどんな表情を浮かべるべきなのかわからず深々と頭を下げた。 「はい。…勿体ないことです」 佐内さんの深い、穏やかな声がわたしの脳天に降りかかった。 「頭上げて。大丈夫、柚野さんは前向きで真面目だから。きっといい仕事できるようになると思うよ。あとは、もう少し肩の力抜いてちょっとだけ楽天的にさえなれたら。…もっとずっと更に、いろんなことが上手くいくよ」 その言葉はわたしの心に深く刻み込まれた。 緊張や集中はもちろん大事だけど、同時にリラックスと何とかなる、って楽天的な気持ちも必要。がちがちに硬くなってたら考えも硬直するし、上手くいくものもいかなくなる。     
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