第11章 桃の初めての恋人

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いやここは仕事の場。誰かに会える会えないでモチベーションに差が出るようじゃ駄目でしょ。と思いはするがそこはわたしも人間。やっぱり憧れのあの人の姿が目に入って、目線が合ったり軽く挨拶を交わしたりするだけでその日は一日身体がふわあっと軽くなったような気さえしてくる。 それ自体はいいのだがそれだけじゃ何しに会社に来てるのかわからない。幸い割に早い段階で、大きめのイベントがあって新人みんなでまとめて現場に駆り出された。そこでわたしは精一杯、やる気を見せてきびきびと頑張って働いた。 「いいね、柚野さんて。そんなに嬉しそうに働く顔見てるとこっちもなんだかやる気が出るよ」 何人かの先輩から笑顔でそんな言葉をかけられた。わたしは弾んだ声で答える。 「だって、楽しいです。このお仕事」 それは本当のことだった。 みんなで力を合わせて頑張ってイベントを成功させるって。考えてみたら学園祭とか文化祭みたいなところがある。勿論学生が遊びでやってるわけじゃなくきちんとした仕事として受けてるんだから、失敗はできないし採算もしっかり考えなきゃならない。だけど、短期間に目標に向けて大勢で何かを作り上げていくのってそれ自体祝祭的だ。こういう空気の中で仕事ができるってやっぱり楽しいし自然と浮き浮きしてくる。 考えてみれば学生時代、大学でも高校でもクラスの中では目立たず片隅に引っ込んでたタイプの人間だったから。こういう時に積極的に動いた経験ってない。そう思うとますます今の幸せを強く感じる。     
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