序章

2/8
前へ
/184ページ
次へ
ある、朝のことだった。 村に流れるのはいつもと同じ、平凡で静かな空気と鳥がピィピィ鳴く音だけだ。 ……そんな、いたって平凡なところに。 「~なんっじゃ、こりゃ~!!」 特大の、声が響いた。 声の主はこの村唯一の防具屋のおっちゃんだ。 おっちゃんは、体の底からわなわなと震えながら、俺の方をじろりと睨んだ。 だけど俺の方は笑いをこらえるのに必死だ。 にんまりと笑いながら「かわいいな、それ」とある防具を指差した。 ごく普通の、どこにでもあるような なめし革の盾だった。 ──ただ全面に花がくっついてるってこと以外には。 おっちゃんは震えながら静かにうつむいて、一言 一言噛み締めるように言った。 「……ま た お ま え の ……」 おっちゃんがわなわなしながら、一気に顔を持ち上げる。 「仕業かぁ~!!」 「にっげろ~」 俺が外に向かって言うと、店の外で待機してた仲間たちが一斉に散らばった。 もちろん俺も、ぴゅう、と逃げる。 「もう、二度と来るなーー!!」 おっちゃんの声が辺りにこだまする。 俺はおっちゃんに背を向けたまま、にやりと笑った。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加