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カイの竹林へ、冬がやって来た。多くの草木花が眠りにつこうとする此の季節、カイの竹林は変わらず猛々しく、冷たく強い風に吹かれようとも力強い精気を放つ。
カイの宮。其の庭へ、降り出した雪に浮かれ御機嫌なユエが駆けて来た。其の後ろを、少し遅れて付いて行くカイの姿も。
「――ユエ。足元へ気を付けなさい」
少し案ずる声が聞こえた。しかし、ユエは嬉しくて天から降り注ぐ雪に夢中。空を眺めたまま。
「足元って……」
と、言った側からユエの足が取られる。降り出した雪で橋が滑りやすくなっていた模様。転ぶ。と思ったが、カイがユエの直ぐ後ろへ。ユエは、橋へ叩き付けられる事無くカイの腕におさめられた。
「こうなるのでな」
「ご、御免なさい……」
暖かい腕の中、ユエは頬を染めてしまった。暑いのやら、寒いのやら。そんなユエへ、カイは笑う。
「汝が転ばず何よりだ」
ユエは恥じらいに言葉が続かない。が、身を起こしたユエがカイの手を取る。
「カイ様と行く……」
失態への反省か、小さな声が。顔は上がらぬものの、カイの手を握って。何と可愛いらしい事か。カイは、込み上げる思いを一先ず胸の奥へと押しやる。
視界に、白い色が少々目立ち始めた。カイが優しくユエの手を今一度放すと、其の手に傘が握られていた。其れは、丁度カイとユエの身がおさまる広さ。ユエは、傘を見上げて驚きの後で笑顔を浮かべた。カイにも浮かんだ自然な微笑み。
「此れで、暫く共に歩けるな」
「はいっ」
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