皚々たる。

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「全てが白く染まったなら、共に出掛けようか……ユエと見る景色は、きっと格別だろうからな」  ユエの耳元へ、優しく囁く声はやはり甘くて。返事は貰えないが、更に強くしがみつく手が其れだろう。降り注ぐ雪の勢いも増してきた。一先ず、本日は此処迄。冷たい風に晒した身を、暖めるとしようと。  其れから、直の事だ。地の中心へ訪れた冬も、盛りとなって。冷たい風、と言うよりは凍る様な冷気も感じる日も。しかし、カイとユエは気温により肉体が酷く翻弄される事は無いのだ。カイは、約束通り仕事に折り合いをつけてユエの為の日を作った。カイの背へ乗り込み、白く染まった地を空より見下ろすユエは上機嫌。共に紅葉を眺めた山へ向かうと、当然の雪景色。秋に、燃える様な赤で染まっていた山は、煌めく白一色となっていたのだ。  カイは、ユエの兄との思い出を辿り共に其れを叶える為に。 「――兄さんは、雪で私でも入れるお家の様な穴蔵を作ってくれたりしたんですっ」  嬉しそうに語るユエへ、カイは真剣に考える表情を見せながら。 「ユエが入れる穴蔵か……」  そう呟くと衣の袖を揺らめかせ、腕を軽く振る。すると、ユエの目の前へ、辺りの雪が積み上げられてゆくではないか。不思議な現象へ驚くユエの口は、みっともなく開いたまま。其れが軈てひとつの大きな塊へと仕上がると、カイは其の真ん中へ指を突く。其れは其れは大きな、雪で出来た穴蔵が仕上がった。其の真ん中より開けられた穴より、奥へ入り込める様になっている。勿論、大蛇のユエがおさまる大きさだ。呆然とするユエをカイが振り返り、微笑む。 「此れであっているか」
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