皚々たる。

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 声に、我に返ったユエは開きっぱなしであった口を漸く動かせた。 「は、はいっ。凄いです、兄さんは、沢山時が掛かったのに一瞬だ」  ユエの素直な賛辞へ、何故かカイは又難しそうに考え込んだ。ユエは、どうしたのだろうと其の顔を覗き込むが。 「あの、どうされたのですか」 「……此れでは、フォンへ負けてしまう。己の身ひとつで完成させねば成らぬのだな」  決意を込めそう言ったカイは、先程作り上げた立派な雪の穴蔵を潰してしまったのだ。ユエは、驚きに又開いた口を閉める事を忘れている。 「えっ……あの……」  カイは身を虎の形へと戻ると、再び雪を集め出した。今度は己の肉体のみでだ。そんなカイの姿へユエは驚くも、堪らない嬉しさと微笑ましさに小さく吹き出してしまう。そして、ユエの中で鮮明に甦る思い出。大蛇のユエでも入れる様に、雪を集め積み上げてくれる兄の姿。其れを見ていた幼馴染み達も共に。身を変える力すら無い己を蔑む者もいた。けれど、そんな者ばかりでもなかった。家族は、幼馴染み達は、何時も己を其の中へ入れてくれたのだと。改めてそう確信出来て、幸せで、暖かくて。ユエは一度鼻を啜りカイの側へ寄ると、共に其れを作り上げようと己も雪を集め積み上げていった。  共同作業の穴蔵が仕上がれば、其の達成感の余韻がある間に、次は雪玉を投げ合うのだとユエが所望する。大蛇の形でユエは、口と舌で器用に雪玉を作っては投げてくるが、ユエへ雪玉を投げる事を流石に躊躇うカイが劣勢となってしまったり。
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