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カイは、光の中で不安そうなユエへ一度微笑んだ後で背を向け姿を消した。そして、今にも村を飲み込まんと崩れ落ちる雪の麓へと身を移して。
雪崩は近くに迫っている、どう対処すれば凌げるか。カイが持つ力は木の力だが、此処に聳える木々達へ力を与えるか。しかし、其れだけであの強大な雪崩全てを防ぎきれるとはと。流石にカイが許された力だけでは、其の可能性もあるのだ。
「くそ……っ、どうすれば……――」
無理か、此れでは。だが、ユエの里を、思い出を、両親を、大切な仲間達を見殺しに等出来ない。此れが運命でも、此の運命には従えない。従いたくは無い。カイは知恵を巡らせる中、ふと思い出した事が。徐に、己の掌を見詰めて。そして、其れは強く握り締めた拳へ変わる。勝算等見えない。しかし、カイは正面を見据え、雪崩が迫る不気味な音を耳にしながら。
「神では無いから、抗う事が許されるんだろうが」
己を叱咤する強い声を上げ、カイは上空へと飛び上がる。程無く辿り着いた位置より山を見下ろし、雪崩を見据えた。冷たく強い風が、カイの美しい白い髪を踊らせる。
最早、時は許さぬ。全身へ力を込め、雪崩に向かいカイが腕を力強く振った。空を切るかの如く、其処より大きな気の力が発せられた。何と次の瞬間、物凄い勢いで迫って来ていた雪崩が其の力により一瞬で凍り付いてしまったのだ。山が、再び元の静けさを取り戻した姿へと。己がした事と言え、驚きに目を見張るカイ。そう。一か八か、カイが使ったのは嘗てマオより授かった黒龍の力だったのだ。
しかし、其れにしても。
「何処が、本の少しなんだ……」
マオへ、そう突っ込まずには居れなかったと言う。
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