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事態が好転したことは、遠くで眺めていたユエも気が付いていた。カイは、そんなユエの元へ姿を表す。
「さぁ、もう心配はいらぬ」
笑顔でそう言い、光に包まれたユエの身をカイが抱きかかえた。
「凄いですっ。雪崩が一瞬で止まりましたっ」
興奮気味に、先程見た事をカイへ話すユエ。安堵の喜びか、頬を紅潮させて懸命に思いを伝える様子だ。しかし、カイは苦笑いを浮かべ。
「ああ。私も驚いた……マオ様へ、御礼を申し上げねば成らぬな」
そんなカイの言葉へ、ユエにも思い当たる事があると。
「ひょっとして、あの時の……」
そう。ユエは、以前のカイとマオのやり取りを思い出した。いやしかし、あの時マオが言っていたのは。
「ま、マオ様のほんの少しって、凄いのですね……」
複雑な面持ちでそう口にしたユエ。カイと同じく、マオへ突っ込みたい言葉だ。此れには、カイも笑みが抑えられず。そして、山を見詰めた。
「マオ様はああ見えて、こういったおおらかな一面も魅力で在られるがな」
カイはユエへ、そうマオを語る。神使は、限りなく神に近い存在。此れは、マオより一種の御告げだと。あの時にマオは、己等に訪れる哀しみを見てくれたのだと。此の力は、きっとマオが己等へ必要なものと感じたからだろう。とは言え、管轄外の地へ此処迄の干渉は本当に特別なもの。
カイは、ユエを見詰めて。
「ユエよ、里を救ったのは汝だ」
贈られた賛辞とも取れる声と言葉へユエは驚いた。
「えっ、私は見ていただけです」
何一つ身を動かしてはいないとユエ。しかし、カイは全てを解しているかの如く微笑み。
「いや。マオ様より此のお力を授かれたのは、汝の清らかな思いやりの心からであったからな」
「で、でも、あんな何でもない事で……」
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