皚々たる。

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 ユエは、気恥ずかしげに俯いた。ユエには、極自然の行動だから。ユキの哀しい表情へ言葉を掛けたかった、笑顔に変えたかった。其れは、己がそうしたかっただけの事。礼を言われたり、誉められたりするものでは無いと。だが。 「違うぞ。此の景色をよく見るのだ」  そう言ったカイは、ユエの視線を目の前の大きな山、其れを覆う雪と氷へ促した。其の麓には、何一つ変わり無く存在するユエの里。其処にあるのは、悲運を遂げる筈であった多くの命。精気の強い大蛇とて、あの強大な雪崩に村ごと飲み込まれては成す術も無かったろうから。其れ等が、何に気付く事もなく本日も変わらぬ日常を過ごしているのだ。 「ユキ様を思いやる汝の心とは、マオ様にとって此れ程の価値があったと言う事だ。其の心へ、運命に抗う力をお与え下さったのだから」  ユエは、今一度目の前の景色を眺めた。改めて里を瞳に映し、涙が浮かぶ。皆が生きている。両親、幼馴染み達の在りし日の笑顔が、己へ向けられた笑顔がちゃんと彼処に存在するのだと。 「良かった……良かった……っ、皆ちゃんと、彼処に居るんだ……っ」  噛み締める安堵感に溢れる涙は、堪えきれずにユエの頬を伝う。ユエは、カイの胸の中で暫く泣きじゃくっていたと言う。  宮へと戻ったカイとユエ。日も落ち、本当に一日たっぷり遊べた様だ。途中波乱もあったが、其れは哀しみとなる事は無く過ぎてくれたのだから。  本日は一日雪の中。冷たくなった体を、火照る程に暖めて。雪に戯れていたあどけないユエも、床の中では何とも美しく艶かしくカイを誘うのだから。其れは、己を見失いそうな程に何とも淫靡で至福の時。
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