皚々たる。

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「――カイ様……」  呟く様な声。甘える様にまだ火照る身を寄せるユエを、カイは抱き締めて。 「どうした」  優しく聞こえた促しに、ユエの肩が少し震える。 「私、村に居た頃は、何時も兄にばかり引っ付いていたんです……皆身軽な人の形で、人の能力を使って遊んでました……だから、私と遊んでも楽しくないって、皆、そう思ってるって……兄と居ないと、輪に、入れないなんて思って……」  時折声を詰まらせながら語られたのは、ユエの寂しい過去であった。其れを聞きながら、カイはユエの髪を優しく撫でてやる。暫し声が止まってしまったが、ユエは再び口を開いて。 「でも、ちゃんと記憶を辿ると、兄がいなくても私を誘おうとしてくれた姿を思い出せました……避けていたのは私……酷く卑屈になってた私には、皆の優しさも、何も見えてなかったんです……私が雪を好きなのは、きっと皆で遊べた思い出が、あったからだって……」  ユエは、大きな瞳に涙を溢れさせていた。あの時、思い浮かんだのは両親の顔だけでは無かった。共に遊んだ幼馴染み達の笑顔も。其れを失う事への恐怖が、ユエが劣等感と共に心の奥底に押し込んだ記憶を鮮明にさせたのだと。カイは、ユエから流れる涙を拭い其の瞼へ口付けを。 「止めた歩みを進めるのも、少しずつで良いのだ。言うたろう……私とユエには、とても長い時があると」  カイは、ユエへ微笑む。そうだ。歩みを進めるのも、真実に気が付いて大切なものを拾い上げる事も、沢山の時を掛けて成せば良い。ユエは、涙を浮かべたままカイへ笑顔を見せた。 「はいっ」
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