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 森奥の小さな廃堂(はいどう)に、男と女――。 「エイルム、右を見てごらん」 エイルムと呼ばれた女の(ひとみ)に、一つの花瓶が(うつ)る。赤やオレンジの花々(はなばな)(いろど)られている。 周りが薄暗くて何の花かは分からないが、きっと美しいのだろう。 「ほら、こっちも! 」 身体を反対側に向けると、そこにはオーブやパイプオルガンが用意されていた。演奏者達も準備万端で着席している。どこからかの隙間風(すきまかぜ)でめくれそうでめくれない、楽譜。 「声も出ないほど驚いてくれるなんて……。頑張って用意した甲斐(かい)があったよ」  そう言い、祭壇(さいだん)に置いていた黒い布を女の前でふわりと広げる。 「じゃん!これは俺の力作。さっ、美しい君を見せて」 割れ物を扱うかのように、丁寧に漆黒のドレスを着せていく。ドレスに合わせて作った髪飾りの黒バラや、レースのチョーカーも優しく付ける。 「やっぱり君によく似合ってる。素敵だよ」キスを交わし、見つめ合う。 「俺達の幸せと愛を祝うために、こんなにも多くの人が集まってくれたんだ。しっかり俺達の愛を見てもらおう」  美しい音色が響き渡る。人々の前で、俺達は愛し、求め合った。 「あぁ……愛おしいエイルム。ずっと……俺のモノだ。離れる、事は許さない。まぁ、もっとも、離れたいなんて……思わない、だろうけ、ど」 女性特有のしなやかな曲線や誰も知らないであろうほくろの数々をなぞる。引き裂いたドレスから(あら)わになった白い肌を、(むさぼ)るように(あか)い印でマーキングしていく。 エイルムは、足掻(あが)き叫ぶことは(おろ)か、涙を流すことすら出来きずに、なされるがままだった。 深いキス、深い交わり、深い愛。 息や熱が、混じり合う――。
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