3部

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 「……先生。やぎ先生ーー。……逢柳(おおやぎ)先生! 」 寒さと声に起こされ、バッと頭を上げる。 「すみません、寝ちゃってました……」 「あはは。おはようございます、先生。大丈夫ですか?」 「もう大丈夫です。すみません……」 「まぁでも、連絡はしていただきましたし、超ヤンデレ新作の最終章も確認して大丈夫だったので、ゆっくり休んでください」 「……じゃあ、お言葉に甘えて。お疲れさまです。失礼します」電話を切り、一息つく。まだ眠気が覚めず、休日の朝でも元気に働くテレビのキャスターに挨拶を返していた。数秒置いて、自分に引いた。  「あ、起きた?おはよう。お疲れさま」 振り向くと、両手にマグカップを持って微笑む(らん)の姿があった。 「おはよう。ありがと、藍」  藍とは数年前に彼が営む花屋で開催されたハーバリウム教室で出会い、仲良くなった。お互い独り身ということもあり、一緒に住んでいる。恋愛関係も無いので、気軽で楽しい。実は、さっきの新作の中の花屋は彼がモデルだ。ただ、性格が正反対の為、ヤンデレ属性を詰め込んだが。もちろん、彼には内緒だ。  コーヒーと会話を楽しみながら、二人でくつろぐ。しかし、徹夜が続いていたせいか、再び眠気が襲う。 「ひざ、貸してあげる。おいで」 返事をする余裕も無く、まぶたが落ち、藍のひざへと身体を預けた。意識を手放す直前、かすかに藍の声が聴こえた。 「少し入れすぎたか。まぁ、いいや。うんと可愛がってやるよ、先生」 ――ら、ん……?  強烈な眠気に何とか抗うも、見えたのは、ほくそ笑む彼の口元に、優しく添えられた一枚のアイビーだけだった。 あぁ、彼に資料など必要なかったのかもしれない、そう感じながら、まどろみへと堕ちていくのだった――。
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