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あのくちづけをもう一度
涼太との同棲生活が3ヶ月を過ぎてしまったというのにあれから何の進展も無いまま、季節は冬になっていた。
俺からすれば、涼太と顔を合わせない日が無い事は、それだけで幸せだし奇跡のような毎日。のはずなんだけど、一度触れた涼太の肌の滑らかさと、あの唇の感触を知ってしまった今となっては物足りない毎日になってしまっていた。
風呂上がりだって毎日律儀にきっちりTシャツ着てやがるし、愛しのベビーピンクもあれっきりお目ににかかる事はないまま・・・
あの夜の涼太の感触を、香りを、ただただ毎日反芻している。
もう一度、涼太に触れたい。
俺ってこんなに欲張りだったっけ?
俺の恵まれた容姿、大抵の事ならさして努力しなくても対応できる器用さに惹かれて、大学生になった今でも言い寄って来る女は少なくない。
俺が望めば簡単に手に入るものは多いはず。
だけど、俺が望んだとしても涼太は絶対に手に入らない。
涼太にとっての恋愛、という土俵に上がらせてすらもらえない。
そう考えると心臓が潰された様に痛い。
ああ~、ラッキースケベでいいから何か起こんねぇかなぁ~!
今日もまた何にも起こんねえまま1日が過ぎていこうとしてるんだろーな!つまんねぇ!
そう思いながら22時過ぎ、もうすぐ帰ってくるはずの涼太を待っていた。
あれ?なんか今日遅くねえか?
来週提出予定のレポートをまとめながら、いつの間にか23時を過ぎていた事に気付く。
間もなくして、玄関のドアが開く音がした。
「おかえりー、どっか寄ってた?」
「・・・いや、寄ってねえ、風呂入ってくるわ、ただいま」
あれ?なんか、明らかに様子おかしいぞ、あいつ。なんか、あったな。
無表情のくせに、態度はわかりやすいやつだからな、涼太は。
・・・あれ?いつもなら20分くらいでバスルームから出てくるはず。もう40分は経ってるな。
心配になった俺はバスルームのドア越しに声をかけた。
「おい、涼太?体調悪いのか?」
返事はない。
「おいどーしたんだよ、大丈夫かよ」
もう一度声をかけると小さな声で涼太が呟いた。
「青、どうしよう、オレ、ヤバイかもしんねぇ」
その声に一気に不安になった俺は、バスルームのドアを開けた。
涼太はバスタブの中で両膝を抱えて座り込んでいた。
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