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キャシーと親愛なる友人たち2 背徳の陰に潜むモノ
私は二杯目を注文した。もちろん、マッカランの12年だ。
「オン・ザ・ロックで……」
と、告げるとバーテンダーは酒瓶が並ぶ棚から迷うことなく私の愛してやまないウイスキーのボトルを取り降ろしてくれた。丸い氷の入ったロックグラスがカウンターに置かれる。今宵、再び私のパートナーとなるグラスだ。
コルクの栓が外され、ボトルの口から刻み良い音が響き始める。店内のマグナボックス社製スピーカーからはコルトレーンが流れている。
私は嬉しくなった。
カウンターに置いた指で音に合わせてリズムを刻む。
ふたつのリズムセクションの裏にサックスがメロディーを重ねてきた。
(ウップス!)
私は指を止めた。まったく同時にバーテンダーがボトルの口を上に向けていた。
琥珀色の液体がグラスにちょうど半分。溶けた氷と混ざりながら刻々と変化する香りを愉しむにはちょうど良い分量だ。
バーテンダーがコースターを滑らし、グラスの中身が波立たないようにして、私の聖杯を差し出してきた。
私は頬を緩ませる。
バーテンダーは得心がいったとみえて、控えめな辞儀をしてカウンターの奥に一歩さがる。
グラスの中を見た。
艶やかに照る氷のまわりで、官能的に螺旋模様を描く琥珀色の液体を見つめ、思った。
男という生き物は、互いの思惑がぴたりと一致したとき、言葉を交わさずとも会話することができる。
私の想いは伝わった。彼はそれに応えてくれた。
私たちは以心伝心していた。
改めてカウンターの中にいる男を見た。
なかなかに゛いい男゛である。
顔はハリウッド俳優のように端正な顔立ちで、身長はおそらく私と同じくらいの6フィートはあるだろう。背筋がしっかりと伸びており、シャツとベストの中には、引き締まった体躯があるのもわかる。刈り込んだヘアーは、清潔感を感じさせ、右耳のピアスにも洒落っ気が感じられた。
私はマッカランをひと舐めした。スモーク香が心地よい。シングルモルトのロールスロイス゛が私の喉を優しく焼きながら胃袋に落ちてゆく。
至福の時間だ……
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