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「いいんですのよ、どうぞ」
「いえいえこれでは多いです」
「いいのよ、ほんとうに、とっておいて」
「いえほんとに、ほんとにダメですって」
「いいから!とっておいてちょうだい!」
甲高いやり取りに虎之助は思わず店をカラにし戸の開いている応接室を覗き見る。
マホガニーのテーブルの上で行ったり来たりさせられている封筒を見て、
虎之助の頭が徐々に傾いていった。
そんな虎之助に見られている事に気付いた二人は、恥ずかしそうに手を止めた。
そして小夜子はキンキン声からなめらかな声音に戻し、お納めください、と
深く頭を下げ無理やりの様に押し問答を終了させた。弥生もとうとう根負けし、
恐れ入ります、と封筒を手にし額に当てるようにしてお辞儀をした。
「はい、これで無事にお支払いも済ませたことだし、
そうそうお持ちしたケーキ召し上がってくださいな。明智さんもご一緒に、ね?」
店番の虎之助にも座るよう勧めてから小夜子が自ら
部屋の向かいにあるキッチンへ行こうとするのを弥生が制し、
それをみた虎之助が弥生を制しキッチンへ向かった。
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