第2章 見覚えのある依頼人

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 翌日、約束時間の5分前にマダムはやって来た。 ガラス越しに虎之助と目を合わせると、まるで数年来の友を相手にしているかのような 馴れ馴れしい笑顔で手を振っている。 ガラガラ・・と小気味よく引き戸を開けると開口一番、 こんにちは明智さん、と甲高い声をリズムに乗せた。 「あ、昨日はどうも・・所長!お見えになりましたよ、昨日の袋小路さんが」 マダムの名前は袋小路小夜子(ふくろこうじさよこ)。 予約を書きこむために最後の最後になって名を聞いた。 ・・袋小路だって、自分だって変わった苗字じゃないか・・ 心の中でヘラヘラ笑ってやった。自分たちのビジネスネームを小馬鹿にしておいて、 そっちだって似たようなもんじゃないか、と音を立てないようにして 虎之助は鼻を鳴らした。  呼ばれてすぐに暖簾の間から顔をのぞかせた弥生は、 店の真ん中で存在感を放っている女の顔を見た瞬間動きを止めた。 ・・ん?この女・・なんか見たことがあるような気が・・ 全体的に大造りなパーツの顔を、どこかで見た事があると目を泳がせた。
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