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本当はホラー映画は苦手だけど、深谷くんと一緒に観れるなら何回だって嬉しい。
そう舞い上がっていたけれど、いざ照明が落ちて上映が始まるやいなや、スクリーン一杯に広がる血飛沫を前に愕然とした。
……何故、何故これをチョイスしてしまったんだろう。
呪いの人形なんていうから、昔からよくあるしっとりとした和製ホラーだと思い込んでいた。(それだって充分怖いけど)
三分に一回くらい繰り広げられる殺戮に、恐怖を通り越して吐き気を催してしまう。
……これが観たいなんて言って、深谷くんにドン引きされてないかな?
どんな趣味してるの?って。
これを機にフラれるなんてこともあり得るよね。
そういう価値観って大事っていうし。
どうしよう。
形勢逆転は疎か、普通のデートすら失敗なんじゃない。
こんなんじゃ、深谷くんに嫌われてしまうよ。
どうしよう。どうしよう。
無意識に顔を両手で覆い俯いていた。
これ以上映画を観るのが辛かったのもあるけど、深谷くんとの悲観的な未来を想像する方が辛くて。
気づいたら冷や汗が流れ、体も小刻みに震え始めていた。
「……大丈夫?」
突然耳もとでそう囁かれ、体がビクリと強張った。
隣を見ると、暗がりでもわかる心配そうな表情の深谷くんが。
「ごめんね、わたし……」
微かな声で言いかけるけれど、「この映画チョイスして」って言うのも、作品に悪いし、これを今楽しんでいる人にも失礼だと思ってそのまま口をつぐんだ。
すると深谷くんは、私の肩にそっと手を伸ばし、そのまま抱き寄せてくれた。
あったかい、深谷くんの温もり。
ドキドキするのに、とても安心感があって心地よい。
不安でいっぱいだった心が、みるみるうちに解けていく。
私は思わず自身の手も彼の胸に当てて、まるで子供が甘えるみたいに頭を深谷くんに預けてしまった。
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