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約束の土曜日当日。
電車に揺られながら、郁子から貰った『形勢逆転指南ノート』をかじるように何度も確認する私。
深谷くんを映画に誘ったまではうまくいったんだけど、予想外に深谷くんが何の映画かに食いついてきたから、焦ってホラーをチョイスしてしまった。
だって時間的に選べたその他の作品は、子供向けのアニメか、めちゃくちゃ官能的なラブストーリーか、暗くてずっしり重そうなサスペンスだったから。
悩んだ挙げ句ホラーしかなかったんだよね。
ちらりと窓に反射する自分を確認する。
変なところないかな?
郁子に教えてもらった少し大人っぽいメイクと、毛先をくるりと巻いた髪。
普段肩なんて出さないから、ノースリーブのワンピースは少し恥ずかしい。
これで本当に形勢逆転できるのかな……?
不安を胸に、電車を降りた。
待ち合わせ時間よりもだいぶ早い、am9:00。
本屋もまだ開いていないだろうし、どこで時間を潰そうかな。
そんなふうになんとなく考えながら改札を出た私は、数秒後に心臓が止まるほど驚くことになった。
なんと待ち合わせ場所の時計台の下のベンチに座り、深谷くんは雑誌を読んでいたのだ。
シンプルなVネックの黒Tシャツがとても似合っていて、制服の時より何だか大人っぽく見える。
雑誌に向ける真剣な眼差しに、周囲の女性達は皆うっとりしている様子で、もちろん私もその一人で。
声をかけるのには中々勇気がいるものだった。
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