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____待ち合わせ時間よりだいぶ早く着いてしまったな。
今日が楽しみすぎてろくに眠れず、早朝にランニングをした後すぐに身支度を終えて、電車に飛び乗ってしまった俺。
そこに真綾が来ているわけもなく、時計台の下のベンチに腰かけた。
せっかくだからいろいろと下調べしておこう。
映画情報誌をぺらりと捲る。
お目当ての作品は、思った以上にえげつない内容だった。
……なかなかな趣味してるな、真綾。
彼女の意外な一面が知れて、胸が高鳴った。
他にエグいホラー映画はないだろうか、これで次のデートの口実ができるかもしれない。
食い入るように雑誌を読み進めていると、周りの騒がしい声なんて全て掻き消すかの勢いで、一際澄んだ声が俺の耳に届いた。
「深谷くんっ」
遠慮がちに、遠くから手を振る彼女。
一目見た瞬間に、吹っ飛びそうになる意識をどうにか堪えながら、俺は口許を手で隠した。
どうしよう、可愛い。
目に焼きつけたいけど、ずっと見ていたら顔面の緩みを抑えられそうにない。
小動物のように、ちょこまかとしながら近づく彼女。
ノースリーブのワンピースからスッと伸びた細い腕が白くて綺麗で、雰囲気もなんだかいつもと違う。
俺はごくりと固唾を飲んだ。
「大丈夫?深谷くん……」
「え?あ、ああ」
ヤバい、見とれてたのがバレてしまっただろうか。
「……もしかして気持ち悪い?」
気持ち悪いわけないだろ!
逆だよ逆!!
Tシャツのタグが右になってるのに気づいた時以上にそう叫びたかった。
「いや、かわ……」
「かわ?」
「……厠に行ってくる」
「……いつの時代の人?」
俺はおかしくなっていくテンションを立て直すために一旦トイレへ避難した。
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