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あの日勇気を出して贈ったタオルを、深谷くんがまだ使ってくれていたんだと知って、嬉しくて思わず涙が出てきてしまった。
そのタオルは少し色褪せていて、何度も使ってくれていたことを物語っていて。
胸の奥が、ジーンと痛気持ち良く疼いた。
「ありがとう……」
そう言うと、深谷くんはそっと涙に濡れた頬にそのタオルを当ててくれた。
「……俺の方こそ」
びっくりして見上げた先の彼は、少し顔を赤らめながら微笑んでいて。
もう私は平常心でいられずに、早口で喋り出していた。
「ふ、深谷くん具合悪かったんじゃない!?もし辛かったらまた今度に」
「いや、平気」
すかさず返事をする深谷くん。
「でも…………」
「もうそろそろ行かないと、始まるな」
そう言って深谷くんは、急に私の手を握った。
「うひゃあああ!?」
思わず変な声が出る。もう、心臓が口から出たみたいに、代わりに変な声が出た。
……初めて、初めて手を繋いだ。
しかもあの深谷くんから……!
ドキドキして、息が苦しくて、体中が熱くて、また泡を噴いて倒れそうになる。
……こんなんじゃ、とても形勢逆転なんて無理。
もう、やられっぱなし。
心臓撃ち抜かれすぎている。
そのあと一言も声を出せずに、深谷くんも何も言わずに、私達は映画館まで黙って手を繋ぎ歩いた。
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