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深谷くんに「あーん」してもらったナポリタンは、本当に美味しくて、甘酸っぱくて、私は生涯この味を忘れないだろうと思った。
「美味いっしょ?」と聞かれ、咄嗟に声が出なくて代わりに何度も首肯く。
深谷くんは心なしかいつもより柔らかく微笑んでおり、手にした紙ナフキンで、私の口許をそっと拭いてくれて。
「ソースついてたよ」
全身の血液が沸騰してしまうかと思った。
……今日の深谷くんは、いつもと違う。
形勢逆転どころか、もっともっと私の方が彼のことを好きになってしまう。
それがなんだか悔しくて、切なくて。
もう自棄になったみたいに、今度は私が深谷くんにスプーンを差し出した。
「深谷くんも、食べる?」
彼は驚いた顔で固まり、私をじっと見つめる。
「……………………」
…………あれ?もしかして嫌だったかな?
心許なくて、スプーンを引っ込めようとしたその時。
深谷くんの手が、私のスプーンを持つ右手首を掴んだ。
そして……
「いただきます」
そのまま深谷くんは、スプーンを口に入れたのだった。
これで、「あーん」のやり取りは成功だ。
私は嬉しくて、「こっちも美味しいでしょ?」と笑う。
だけど深谷くんは____
「ああ。こんがり焼けたチーズの香ばしさと、ホワイトソースのコク、えびのプリプリ感と柔らかいマカロニの食感があいまって、絶妙のハーモニーを醸し出してるな」
「………………う、うん。そうだね」
なんだかまた冷静だった。
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