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深谷くんは不思議だ。
いつも優しく、時々思わせぶりな行動をとるのに、急に冷静な態度で。
まるで、ドキドキしているのは、……恋してるのは私だけみたい。
食事の後も、そんな考えばかりが頭の中を支配して、ぶらぶらしているショッピングモールも楽しむことはできなかった。
こんなんじゃ、余計嫌われてしまうよね。
郁子にもらった形勢逆転指南ノートが寂しそうにバッグの中で身を潜めている。
確か一緒に買い物をするときには、ささやかなものをおねだりするんだっけ。
『男の人は、叶えられる程度のワガママを女の子から言われるのが、一番嬉しい』んだって。
だけど、とてもじゃないけどワガママなんて言える心境じゃない。
私が欲しいのは、目の前に並んでいる煌めくアクセサリーじゃなくて、『何故、私と付き合ってくれているのか』という理由だよ。
「……それ、欲しいの?」
ぼんやりと眺めていたハートのチャームのネックレスを指差して、深谷くんが尋ねた。
「え!?ち、違うよ!ただ、なんとなく可愛いな~って!」
慌てすぎてしどろもどろになってしまった。
近くに店員さんがいたので、大声で「違う」なんて言ってしまって気まずい。
「……そうか」
ほら、また深谷くんは落ち着いた声で呟く。
どこか興味なさげに。
私はどんどん悲しくなってきて、どうにか涙が出ないように抑えた。
気を取り直すように、
「深谷くん、次どこに」
と言いかけた途端、
彼は思ってもみなかった言葉を口にした。
「なあ、少し別行動しないか?」
「別……行動?」
「30分くらい。俺ちょっと見たいとこあって。真綾もゆっくり好きなとこ見てくれば?」
「私はいいよ。それより、深谷くんの見たいとこ」
「いや、大丈夫!すぐ終わるからさ!」
そこは強引に決めようとする深谷くんに、私はもう何も言えなくなってしまった。
「……わかった」
深谷くんは、パアッと明るい表情で笑う。
「ありがと!じゃあ30分後にあのベンチのとこで!」
コクりと頷いて、踵を返す。
せっかくのデートなのに、別行動なんて。
もう私と一緒にいるのに疲れてしまったんだろうか。
土曜日のショッピングモールはとても賑やかで、カップルも沢山いる。
彼らの仲睦まじい様子を眺めながら、足早にどんどん通りすぎて行った。
……もう、帰ってしまおうかな。
その方が深谷くんも楽かもしれない。
そっとカバンから携帯を取り出した。
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