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____「真綾(まあや)」
改札口の端っこで、壁にもたれながら携帯を見つめていると、私を呼ぶ声が響いた。
「深谷君、おはよう」
彼は今日も、早朝から安定のイケメンだ。
「おはよう。待たせてわりい」
真顔でそう返事をする深谷君。
「ううん」
寝不足なのかな?
不機嫌そうに定期を出す彼に、何て声をかけていいかわからず、黙って自分もカバンの外ポケットのファスナーを開けた。
そうだ。これあげよう。
ポケットに入っていたクッキーを取り出し、先を歩く彼にそっと手渡した。
「……?」
「あげる。これ食べて血糖値上げて」
にこりと微笑んでも深谷君は真顔で、「ありがと」と言うとすぐにそれをブレザーのポケットにしまった。
電車の中ではいつもお互い無言で、二人してただ窓の外を見つめるばかり。
混雑してる車内でペラペラ喋るのもどうかと思うけど、一言もないっていうのは若干寂しい。
「わ!」
揺れが激しくバランスを崩すと、咄嗟に深谷君にしがみついてしまった。
「ごめん」
「いや、別に」
……………………。
真っ赤になって焦るのは自分だけで。
深谷君は冷静に、義務のような感じで私の肩を抱いた。
益々ドキドキしてしまう自分が切ない。
こんな気持ちになるのは、自分だけなんだなって。
「じゃあ、私行くね」
先に降りる私は、それでも彼に笑いかけた。
「帰り、迎えに行くから」
真顔でそういう彼。
「わかった」
ドアが閉まると、彼がこちらの方を向いた。
両手で大袈裟に手を振る私に、ニコリともしない深谷君。
「…………なんで」
高校生になった今でも、私達の関係は続いている。
学校は別々なので、登下校と休みの日しか会う機会がないけれど、コンスタントに連絡を取り合い、よくデートしている方だと思う。
喧嘩だって一度もしたことがない。
だけど日に日に謎が深まっていく。
私達は何故、付き合っているんだろう。
なんで深谷君は、私に好きだと言ってくれたんだろう。
そう思ってしまうほど、彼が私を好きだという素振りが見えないのだ。
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